- Amazon.co.jp ・電子書籍 (280ページ)
感想・レビュー・書評
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尾身茂はコロナ対策の分科会長であり、専門家である。政治家ではない。
帯には「官邸vs専門家」という文字が大きく踊っているが、そもそも政治家と専門家の役割自体がまったく違うため、本来はvsと書かれるような対立構造には陥らないはずである。本書で幾度となく書かれるように、専門家の役割はあくまでも提言であり、政府の役割は決断することである。言うまでもなく、提言=決断ではない。
なので本来は対立する必要もないし、はっきりと役割分担がされるべき立場なのだが、本書のインタビューでの尾身茂の言葉からは専門家の頑迷さより、政府の役割に配慮しながら専門家としての提言をする柔軟性が感じられる。
たとえば、五輪開催の是非については専門家として「開催すべきではない」と答える。当然である。しかし政府はどうしても開催したい。そして、非を突きつけつつも、是の前提での提言を行う…。
その柔軟性は尾身茂本人の役割が曖昧に見えることにも繋がったのだろう。それは、尾身茂を政府関係者と思っていた国民も少なくなかった要因でもあり、本書で記されている通り、尾身茂への批判(殺害予告まで届いたそうである)を呼ぶことにもなる。
コロナ禍における3年間の尾身茂の仕事に関しては、功罪はあるだろう。本書のインタビューを読むと、そんなことは当然ながら本人も織り込み済みである。重要なことは、コロナ対策への批判的検証である。
本書内でコロナ対策が上手く進んだ国として韓国とシンガポールが挙げられているが、なぜ上手くいったかの大きな理由として、コロナ以前にも大きな感染症が流行したからである。
コロナ禍の記憶がまだ新しいため、尾身茂の話そのものに新鮮さがあるわけではないのだが、結果的にコロナ禍と併走した3年間の流れがまとまっているので、書籍というより記録として有用だと思う。