被害者家族と加害者家族 死刑をめぐる対話 (岩波ブックレット) [Kindle]

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  • 1983年に起きた半田保険金殺人事件で弟を殺害された原田正治氏と、麻原彰晃の娘である松本麗華氏の対談をおさめた小冊子。

    被害者家族遺族と加害者家族という、一見は正反対の立場に思えるふたりだが、本文中の原田氏の発言にあるように、ふたりの共通項は多い。死刑への反対や、社会からの分断、孤立化である。

    死刑への反対に関しては、松本氏はとにかく、被害者遺族である原田氏がその立場にあることを疑問に思うかもしれない。しかし、その疑問自体が原田氏によって語られる、世の中の人間がかくあるべき被害者像を遺族に押しつけているという問題から生まれる疑問だろう。

    詳細は本書に目を通してもらえればいいのだが、原田氏はもともと極刑を望んでいた。しかし、犯人である長谷川君(原田氏は犯人のことを君付けで呼ぶ。事件前から友人のような関係性であり、もともとそう呼んでいたからだそうだ)との面会を通じて考えが変わったとのこと。

    原田氏が望むように、被害者遺族に勝手なレッテルを貼るのは論外であろうが、しかしだからといって世間の人間は想像することをやめないだろう。そして、その想像力は決して悪いものではないと思うのだが、問題はそれがごく一部にしか働いていないことなのだと思う。

    世の中には事件のことが報道される。しかし、当たり前だが、事件の前にも後にも、それらに関わるひとびとの生活はある。
    先に書いた犯人への君付けにもバッシングはあったそうだが、事件前から友人のような関係性であった以上、そこまで批判するようなことではないだろう。そもそも、原田氏は犯人に対して「絶対に許さない」という点では一貫しており、それは極刑を望んでいた頃も、死刑の撤回を望んでからも変わらないのである。君付けへのバッシングは、原田氏の一部分だけを切り取ってのものでしかないのである。

    事件の後でいえば、犯人との対話である。原田氏は対話の重要性を訴える。これは犯罪被害、加害にかかわらず重要なポイントだろう。
    死刑の存置、廃止のどちらがいいという話ではない。対話は、ひとをひととして見ることである。被害者遺族にしろ加害者家族にしろ、世間は彼ら彼女らをひとりの人間として見ない。こうあってほしいという被害者像や加害者像に当てはめる。その狭い想像力から抜け出すひとつの方策が対話なのであろう。

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