無人島、研究と冒険、半分半分。 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 波打つ等高線が描かれた無人島の地形図。
    その地図に記された「悪魔の爪痕」「死の廊下」という意味深な地名。
    思わずワクワクしてしまうのは致し方なかろう。だってRPGと冒険譚を栄養に育った世代だもの。端が破れかけの羊皮紙風地図とか皆好きじゃろ?

    だがこれは現実に存在する南硫黄島の地図であり、意味深な地名は作者の川上先生が(勝手に)つけたものである。

    南硫黄島はこれまでに人間が定住したことはなく、人間の手によって外来生物が持ち込まれていない貴重な生態系が残された島だ(本文後半にあるが鳥によって持ち込まれた形跡はある)。
    この島はこれまでに4回しか調査されていない。著者はそのうち2回参加したそうで、その際の体験談とそこから得た知見、また近隣の小笠原諸島や火山列島との比較をまとめた成果がこの本になる。

    さてここでもう一度、本のタイトルと冒頭の意味深地名を思い出していただきたい。

    そう、ただの調査記録ではない。世界に類を見ない貴重な自然の調査とその結果を、一般人が読んでも楽しめるようユーモアと実益の双方をそこねない絶妙なバランスでまとめているのだ。
    タイトルや地名などまだぬるいほうで、本文を電車やバス内で読むのはお勧めしない。ギャグ漫画を読んでも表情筋がぴくりとも動かないぐらい修練を積んだ方でないと、周囲の視線にいたたまれなくなるだろう。

    ちなみに「税金から調査の予算が出ている以上、納税者に調査結果を還元せねばならない」というのが川上先生のスタンス。実際、生物学や鳥類学に馴染みのない人でも、その分野の専門家でも、はたまたこれから見聞を深めていくお子さんでも、誰でも楽しめる本に仕上がっていると思う。

    中には「不真面目な文章だ」と顔をしかめる方もいるかもしれない。だが『認知を広める』には老若男女問わず幅広く読んでもらう必要がある。
    南硫黄島の現状や外来生物による自然破壊の影響、調査隊の苦労などを知ることで、ひとりひとりが自分に出来ることを考えるようになるだろう。また読者の内の誰かが、将来川上先生の後継者として南硫黄島の地を踏むかもしれない。
    この本は過去の記録を残すためだけに綴られたのではない。未来まで見すえた深慮遠謀の冒険記なのだ。

    なおAmazonではくだんの地図と冒頭部が公開されている。
    内容が気になる方はぜひそちらでご確認ください。面白いから。

  •  おもしろかった。NHKでも放映された南硫黄島の調査に参加した著者による記録エッセイである。まあNHKの放送内容どおりであるが、書籍で読むと別の趣もある。
     他の研究者とのさりげない会話だったり、調査対象の鳥に対する解説だったり、細かいところが面白い。とりわけ、巣穴に密度を算出する方法など、研究方法の一端がとても興味深い。
     また、後日の北硫黄島調査や今までの小笠原諸島での研究結果と合わせて、人跡未踏の地の変化、そこにいる生物の進化(変化)に関する考察が深い。ただのエッセイすとではない著者の見識の凄さがある。
     あえて難を言えば、本書の題名である。著者を知らない人にとって、こんな題名で読みたくなるだろうか?

  • 太古の昔から、人が住んだことのない南硫黄島、こんな島は他にはないと。自然がそのまま残された島の動植物の生態調査。10年に1度しか行われない調査の冒険と科学の書。いつもの著者のテンポでおもしろおかしく冒険譚を披露しながらも、生息する鳥たちが、なぜここにいるのか、他の島になぜいないのかを説く。良書。

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著者プロフィール

森林総合研究所・島嶼性鳥類担当チーム長。西之島など離島の鳥類調査に従事。チーム名は自分で提案したのだが,「島」と「鳥」という字が似ていて時々混乱する。

「2023年 『羽毛恐竜完全ガイド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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