- Amazon.co.jp ・電子書籍 (338ページ)
感想・レビュー・書評
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面白かった!!「遺伝子-親愛なる人類史-」で興味深く、かつ慄きつつ読んだ、研究の発展が優生学、ナチスへも続いてしまう道筋…のあたりがメイン。題材的に、科学だけでなく道徳倫理哲学著者の価値観…が当然のごとく出てくるのだけど、かなり正面から語っていて好感を持った。
人間の複雑さ、多様、多面性の重視を最後に言っているのだが、本自体がそういった構成になっているのも面白い。進化の研究の発展と優生学のそれが別立てになっているので、学者たちの研究やバトルをわくわくして、時には応援しながら読んでたら、優生学の章では同じ人物たちの目的がそもそも人間の育種だったり強力に優生学を推進してたり…といったなんてこったい体験ができる(もちろん温度差はそれぞれだし、反対してる人もいる)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第七章の第一節 ヒトラーの専属医師が遺した言葉が、全く知らなかった歴史的事実でショッキング。
ダーウィンの進化論は科学史上のエポックメイキングであり、自然科学だけではなく人文・社会科学にも大きな影響を及ぼしている。
進化論を安易に社会や文化の進化と結び付け論ずる際におちいりがちな陥穽を「ダーウィンの呪い」と称し、詳細にその展開と功罪を論じています。
第十二章 無限の姿まで読み通すとさわやかな読後感でした。 -
ダーウィンと聞けば、進化論を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
私もその1人であり、環境に適応できなければ淘汰されていくことは当たり前のように受け取っていた。
だが、淘汰されることと、淘汰すること、〜であることと、〜すべきだということには違いがある。
見知らぬうちにバイアスがかかっている事は、えてして起こりうる事なのだと感じた。 -
そもそもダーウィンの書物自体に正面から向き合うこともなく、世間に流れるダーウィニズムの風潮の一端を感じる程度ではあるが
そのダーウィンの残した呪いという後代の変遷を、畢竟優生学の観点から見つめ直すという趣旨により
「優生学」を冠するような書籍は時代的な賛否の轍の中に囚われがちなのもあって手にすることもなかったが
ようやくにしてその中で現れた人物たちと思想について触れる機会を持てたように思う。 -
ダーウィンの進化論が世の中にどう受け取られ、活用または誤用されてきたか、というテーマは非常に魅力的。ただし著者が読者の知識、学習意欲を信頼し過ぎており、過多な情報がバリバリとやってくる。その道に詳しくない人間にはついていくのが大変。
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序盤は各種の言葉の定義がややこしく結構苦心して読んだんですが三章以降すこぶる面白かった! 進化学と社会学やSF小説との関係なんかも出てきてへーと思ってたらあれよあれよという間に優生学の話になりナチスの話になりで現代に連綿とつながっていく、重厚かつ壮大な本でした。
文章がうまいと評判の先生でも流石に事実を順繰りに説明してく文章でうまさってもな・・・と思いながら読んでたんですが、端々の異様に格好いいフレーズやエピソードのチョイスと理屈は分からないながら読み終えてみたら全編情報の縦糸と横糸が張り巡らされた構成、やっぱり凄くうまかったです。 -
ダーウィンが多様な種がどのように生まれたのかを考察した「種の起源」で説いた進化論が、優生学やヨーロッパ人種を頂点とする人種差別の理論に利用されていき、優生政策やホロコーストにまでその理論根拠になっていく様を描いている。
進化を意味する英語の evolution という語は元来「内側に巻き込んでおいたものを外側に展開する」ことを意味しているようで、ダーウィンも初版ではこの言葉を使っていなかったようである。(今西錦司先生は種の起源は原著で読めと宣われている)自然科学と社会科学がまだ十分に分化していなかったダーウィンの時代、「種の起源」は自然科学のみではなく、社会、政治、思想といった分野に演繹されていく。進化は進歩、適者生存は生存競争に置き換えられ、自らの主張の根拠に「ダーウィン曰く」が使われるようになる。
進化論はもともと創造論のアンチテーゼとして述べられたものだと思うが、発表された「種の起源」は思想・政治的には人種にはもともとヒエラルキーが存在すると考える創造論者の側で活用され、ヒエラルキーの頂点にいる人種・民族がその優秀さを保つため、悪しき人種が交わることを許さず、駆逐すべしとされてしまった。
自然科学の知見が本来語っていることを、思想・政治の立場からあえて曲解し、自らの理論の足場にする行為は決してダーウィンの時代や近代の闇ではなく、現代でもしぶとく生き残っている手法である。いわゆる理科系人種も政治・思想の分野にも目を向け、自ら立脚する足場が崩されていくことが無いように注意を向けいていくべきであろう。