主人公マイクルが『奇跡の少年』と呼ばれるようになったのは、ある凄絶な体験から生還した為だったが、それから彼は言葉を発することを捨てた。両親が死んだ為伯父に引き取られたマイクルは、ひとり遊びの中で錠前を破る特技を身につけるが、高校生の時それを活かしたせいで逮捕される。主犯格の名前を明かさなかった為、侵入した家の主人の下で勤労奉仕に明け暮れることになったが、その娘アメリアと恋に落ちて以後、あらゆる意味で彼の世界は変わって行く。
『話せない』のではなく、『話さない』ことを選んだマイクルの一人称で語られる物語は、クールなようでいて波乱に満ち、騒然としていながら静謐でさえある。彼が言葉を発しないということが非常に大きいし、本作の肝でもあるが、それにしても本当に最後まで一言も喋らせずに書ききるとは。どこかで一回くらい喋るのだろうと思ったし、また自分なら絶対そうさせるだろうから(そして肝心の台詞は安っぽくなるから)、揺るがない信念のようなものすら感じる。喋らないマイクル、喋らせないハミルトン、双方クール。ラストで、アメリアに会ったら必ず何か言ってみせると誓うマイクル。刑務所の中にいても希望に満ちたラストシーンだが、2,3日喋らないだけでも発声って難しくなるから、ちゃんと声が出せるのかちょっと心配。