向田邦子との二十年 (ちくま文庫 く 6-3)

著者 :
  • 筑摩書房 (2009年4月8日発売)
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感想 : 14
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感傷的でも過度に情緒的でもない文章なのだが、なんだか居心地がよくてずっと読んでいたい気持ちになる。
久世さんが描く向田邦子さんの在りし日の姿は、なんと豊かな女性なのだろう。
いなくなられて十数年もたってみると、姉のように思われてくるのはどうしてだろうー 初めは仕事上の関係と綴る文章が、ここで本音に近づいた気がする。
映画監督・市川崑作「おとうと」や中原中也が引合いに出されていてわかりやすいが、弟気質の男性・あるいは全ての男性は、自分をそのままでいさせてくれて許してくれる姉的肯定の存在を求めていると。姉は美しくなければならないし賢くあってほしい。優しくもあってほしいし、つよくもなければならない、と。
ずいぶん勝手なはなしとゆるやかに綴るが、長女気質で働く女性の代名詞だったみたいな邦子さんに、多くの読者はその勝手な面影を押しつけてきたのかもしれない。
作家の在りし日の姿を、理想像を知りたいと思って読むと裏切られるが、向田邦子さんという三姉妹の長女の貌(かお)、日々豊かに軽やかに生きていたひとりの女の貌を知る素敵な一冊だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年7月4日
読了日 : 2013年7月4日
本棚登録日 : 2013年5月19日

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