鯨の岬 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2022年6月17日発売)
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本棚登録 : 180
感想 : 25
5

なんだかものすごい作品を読んでしまったぞ
言葉で解説なんてできないけど、心がすごいと言っている、そんな感じ
今から言葉で感想を書くんだけどもさ(笑

『鯨の岬』
普段ミステリを中心に読んでいるので、そういった方面からの驚きもあってびっくりした
冒頭の、鯨爆発動画を見て笑う孫とそれに嫌悪感を抱く祖母、これがミステリ的伏線だったなんて……
ふとしたきっかけで目的地とは違う行先の電車に乗ってしまうとか、そんな展開と合わせて「あーはいはい、自分の生き方を見つめる的なお話なのかな」なんて思っていたら、命のお話になるとは
……命というか、死者への祈りや自分の内面への探求とか、そんなものを感じました
冷たい言い方をするけど、旧友が死んだ過去を思い出したからといって現実的に何が変わるわけでもないじゃないですか
でもそれでも50年も昔の死を思いだし、泣き、祈り、自分の空白と向き合い、そして生きていくという描写に胸を打たれるんですよ
このあたり、考えれば考えるほど「なんなんだろう……」って、もうかなり長文を書いてるからここまでにしとくけど、キリがないんですよねホント

『東陬遺事』
この作品こそ言葉に出来ない
例えばたづが死を選んだ理由ひとつとっても、読んでいて違和感はないのに説明ができない
出自・生い立ち・北の大地での死生観、呪い
作中のセリフや描写から拾う事も出来そうだけど、それだけで収まらない
解説からの引用で「つまらぬ欲や些末な感情へ小説世界を誘導すると、その構えの大きさに内臓まで開かれ手痛い目に遭う」ってのがしっくりくる

引用したところで書いとくと、解説もとても良かったです
「鯨以外の哺乳類はすべて絞めることができます」
「人間も?」
「ええ、たぶん」
この会話とかメッチャかっこいい!クール!!

まったくの不勉強で存じ上げなかったのですが、第167回直木賞候補の作家さんだったんですね、河﨑秋子さんて。確かにこりゃすげーわ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年8月19日
読了日 : 2022年8月18日
本棚登録日 : 2022年8月14日

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