ミュージック・ブレス・ユー!!

著者 :
  • 角川グループパブリッシング (2008年7月1日発売)
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本棚登録 : 680
感想 : 134
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高校生が主人公ということで、青春物か〜、と、なかなか手が出せずにいたが、そこは津村さん!直球の青春物のわけがないか。相変わらずのグダグダ展開でありながら(これはほめ言葉です)、そのグダグダっぷりがやけにリアルで、かつての自分をちょっと重ねながら夢中になって読んだ。
恋。友情。進路。青春物には欠かせないテーマが、津村さんのフィルターを通すと、ほんっとにしょぼくれてイタいんだけど、実はこんなもんだったりするよな、と。
主人公のアザミが、とことん不器用で、何をやってもあちゃ〜な展開になる。でも音楽だけは大好きで、特に洋楽のパンクもの。残念ながら登場するアーティストはあまり知らなかったのだけど、自分も趣味がマイナー傾向にあるので、洋楽オタクのイケてない男子トノムラに対する、共感と反発が入り混じったような感情ってすごくわかる気がした。トノムラの友人で、歯科矯正を通じて知り合った野球部のモチヅキ(この歯科矯正の小ネタも大好きである)も、またちょっとイタいんだけど憎めない奴で、男友達との付かず離れずな関係の描写がすごくよいのである。
男友達もいいけど、やっぱり女友達との友情もよかった。親友チユキもアザミも、卑劣だったり不条理だったりする男に対して、「目には目を」な制裁を加えるのだが…その方法がいいか悪いかは置いといて、読む側は胸がスカッとした。
そんなグダグダな日々にだって終わりはある。卒業すればそれぞれの道を歩んでいく。ツルんでバカやってた日々の愛おしさ、それが終わってしまうことの切なさ。勝手に泣きの地雷を踏み、ウルウルしてしまった。
泣きの地雷はもうひとつある。子供を持つ親ならきっと踏んでしまうだろう、あえて詳しくは書かないけど、その箇所を読んでグダグダ展開がぎゅっと引き締まった。そこに津村さんの構成の巧さを感じた。たくさんの青春小説の中でも、この作品はイケてない部類に入るかもしれない(笑)だからこそ、一番好きかもしれない。
かつての自分は勿論、今の自分(アラフォーだけどな)も重ね、しょっぱくて情けない毎日でも、前を向いていこうと思えた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 津村記久子
感想投稿日 : 2009年10月24日
読了日 : 2009年10月24日
本棚登録日 : 2009年10月24日

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