あのひとは蜘蛛を潰せない

著者 :
  • 新潮社 (2013年3月1日発売)
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本棚登録 : 752
感想 : 130
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彩瀬さん待望の初の長編書き下ろし小説!期待通り読み応えのある一冊でした。
「毒母モノの傑作」と一部で評されており、確かに「抑圧する母親からの自立」がテーマのひとつではあるが、登場人物らが抱える心の闇が幾重にも重なり、それぞれに苦しみながら殻を破ろうとする過程がとてもよかった。
ドラッグストアに勤めるアラサーの主人公・梨枝。大学生のバイト・三葉君と付き合うようになり、それまで自分をがんじがらめにしてきた母の存在が疎ましく感じられ始める。母親の言動がひとつひとつ息苦しいが、話の中でも語られてるように、「毒母」とはいえすさまじく恨めしい、というほどの存在ではない。かつて乳児の弟を亡くし、父と離婚してからは女手一つで自分と兄を育てた。そういう過去があるから母を憎み切れず、「かわいそう」な存在と語る梨枝。でも、人と比べて何が普通なのか、常にものさしで計ろうとする梨枝の生真面目さが、己の心をしめつけている。
一見快活だが、時々見せる三葉君の冷たさに、彼も何か抱えているのではないかと感じさせられる。少しずつ綻び始める梨枝と三葉君の関係。一方で、梨枝が独り暮らしを始めると同時に実家に引っ越してきた兄夫婦との同居に、母も翻弄されていた。兄・そして兄嫁の雪、ぎくしゃくする3人はそれぞれにひっそりと足掻き、心の距離が縮まらない。更には、ドラッグストアの常連で、必要以上に頭痛薬を買い込む「バファリン女」の存在。それぞれにヘヴィーだけれど、それでも重苦しくならずに読めた。登場人物らの不器用さが際立つけど、だからこそ彼らの悩みに共感できるのかもしれない。
最後の方の、皆で餃子を作るシーンがとても好きだな。波打つ感情への寄り添い方が、さり気なく優しい。そんな彩瀬さんの描写に好感が持てます。全体的には地味かもしれないけど、心に刻まれる言葉の選び方が印象的だ。心をぎゅっと掴んでねじられるような感覚に捉われるけど、何とも言いようのない切なさに泣きたくなったり。作中に出てくるさざんかの「赤」が鮮やかに感じられ、色々なものを象徴していてとても効果的だった。
「R-18文学賞」受賞作家はハズレなしとこれまでも同賞受賞作家のレビューで述べてきたが、やっぱり今回も同じセリフを言いたくなります!本書の彩瀬さんのプロフィールに「手触りのある生々しい筆致と豊かなイメージにあふれた作品世界で高い評価を得る」とありましたが、本当にその通りだなと感じております。これからの活躍が楽しみ!応援し続けます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の作家
感想投稿日 : 2014年3月11日
読了日 : 2014年3月11日
本棚登録日 : 2014年3月2日

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