浮遊霊ブラジル

著者 :
  • 文藝春秋 (2016年10月24日発売)
3.71
  • (54)
  • (127)
  • (98)
  • (14)
  • (5)
本棚登録 : 893
感想 : 133
5

まったりのほほんとしていて、滑稽で、時にしみじみと味わい深くて…津村さんらしさが存分に味わえる短編集だ。大満足でした。
ずっと読みたかった川端康成文学賞受賞の「給水塔と亀」。淡々とした文章から滲み出る慎ましい幸福感が、静かに心を満たす。この「純文学」な空気がたまらなく好きだ~と思った。
「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」、喜怒哀楽が絶妙なバランスで詰まっている。お見事。
「アイトール・ベラスコの新しい妻」、サッカー選手の再婚話かと思いきや…あんな話だとは全く想像できなかった…スクールカーストのエピソードがちょっと怖かった。「この世界こそはクラスだと綾は思う。(中略)ママ友の集まりはもちろんクラス、PTAだってクラスだ。クラスでないものなど世の中にはない、と断言していいぐらい。」とは、全くもってその通りと、軽い絶望を感じながら同意する。女性ならよくわかるだろう…このカーストから逃れられないんだよなぁ結局。色々な意味で印象に残る短編だった。
「地獄」「運命」「個性」、シュールでコミカルな展開に人生の悲哀を感じさせるところがさすが。特に「運命」で描かれるトホホ感には大いに共感します。
「浮遊霊ブラジル」、浮遊する霊だからロードノベルとは言わないだろうけど、憑りつく相手を替えながら、生前叶えられなかった旅行先・アラン諸島への上陸を目指す…という展開が斬新。私は津村文学の、いい意味でのみみっちさが大好きだ。褒め言葉ではないだろうけど、最終話ではそのよさが十二分に表現されているなと思った。ふわっとした空気感が心地よく、読了後はいつもほのかに幸せを感じる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 津村記久子
感想投稿日 : 2017年7月20日
読了日 : 2017年7月20日
本棚登録日 : 2017年7月11日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする