堕落論 (280円文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所 (2011年4月15日発売)
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感想 : 71

初読。これは……戦後すぐにこれを書けるのは文学者としてというよりも哲学者として凄すぎるな。第二次世界大戦に身を投じた日本人の国民意識を解体し、それまであった倫理観を徹底的に否定、なぜ人は戦争に魅入られてしまうのか、人という存在の矮小さ、自分自身の矮小さ、道徳というものが曖昧なものでしかないこと、そして”なぜ人は堕ちるのか”、それらを宣誓文のような筆致で解き明かしていく。ここに書かれていることは現代の日本においてはむしろまっとうな精神と思えるものばかりだけど、戦後すぐにこれを発表しちゃうあたり並大抵の根性じゃないなと思う。なによりも言葉ひとつひとつの重みが違うので、例え自分の思想に反することが書かれていたとしても、内臓の方にまで届く迫力がある。それこそがこの『堕落論』の凄さであり、小説家であるところの坂口安吾の真骨頂なのだろう。自分自身がいかに弱く脆いかをよくよく知っているからこそ、「人間」それ自体の脆弱さをここまで綴れるんだろうなと感じる。人間を見つめる目線の冷徹さが尋常じゃないんだもの。言葉によって人は物事を規定し、誰かに影響を与え、社会の見方を変えることが出来る、そのことをゴリゴリに力強い筆致で見せていくエッセー文学。圧巻。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年2月4日
読了日 : 2024年2月4日
本棚登録日 : 2024年2月4日

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