定本育児の百科 (岩波文庫)〔全3冊セット〕

著者 :
  • 岩波書店 (2008年2月15日発売)
4.43
  • (21)
  • (12)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 281
感想 : 14
5

★教育の目的は子供の天分を見つけて食べていけるようにすること
★ 理想どうり自分が主人公として自分の思い通り生きること

松田道雄は、14年前の1998年6月1日に89歳で亡くなった小児科医・育児評論家。

この本は、不安と期待をもつ子育てを初めて経験する父親と母親のために書かれた本で、妊娠から誕生そして入学までの子育てに必要な知識を、子供を個性的に育てようと愛情と叡智を込めて、その年齢に応じた基本的な対応策がよくわかるように書かれた1967年に出てベストセラーになった本です。

もしこの本が、絶えることなくロングセラーになってもっと広く読まれていたなら、赤ん坊が泣きやまないから床に投げつけて死なせてしまうとか、パチンコ店の駐車場で灼熱の車の中に放置して幼児を熱死させるなどという、子供にたいする虐待や殺人がなくなったかもしれないと思うのは、少しうがち過ぎるでしょうか。でも、そう妄想させる根拠は、この本がそこいら辺に転がっている単なる技術的なハウトゥ本などではなく、松田道雄ならではの松田道雄にしか書けない本だからです。それは、不安と気後れと、もしかして拒絶までしかねない母親に対して、小児科医としての豊富な知識と経験を元に、やさしくきめ細かくユーモラスに語りかけ、自分の子供が他と違って異常なんじゃないかと心配する母親にむけて、それはちっとも特殊でもなんでもなく普通の症状だから安心していいんですよ、と具体例を示して説明してくれる。そうすると、どうにかしてこの情況から逃げ出したいとイライラしていて、今まで不憫でなさけなく思っていた子供が、あわれで可哀そうに感じていた自分自身が、なんだ、撮り越し苦労で思い過ごしでバカみたい、なんだかフッとおかしくなってちからが抜けてくるようでした。という証言を、少なくとも身近で数十人の方から聞いたことがありました。

まだ私は結婚も妊娠も出産もしていませんが、彼との出会いは高校生の頃に『革命と市民的自由』や五木寛之・久野收との共著『現代への視角』やトロツキー著・共訳『レーニン』や『在野の思想家たち』などを読んでからですが、すごい本を書いている小児科のお医者さんがいる程度の認識でしたが、その後60冊を超える彼の編著作を手にしてきました。加賀乙彦やなだいなだや帚木蓬生など、医師との二足の草鞋を履く作家・思想家の面白さユニークはまた格別です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 医療・教育・体育・エクササイズ・舞踏・日常生活批判
感想投稿日 : 2012年8月12日
読了日 : 2010年6月1日
本棚登録日 : 2012年8月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする