民俗学者で詩人で日本の女性史学を創出した高群逸枝の学究の徒というイメージにコペルニクス的転回を迫った力作評伝の丹野さきら著『高群逸枝の夢』について、かつて私はこう書いたことがありました。(2009年4月14日)
「115年前の1894年1月18日熊本県に生まれた髙群逸枝は、日本女性史を独力で切り開いた人。
彼女のあとには、血族のように強い意志を持った後継者たちが続くのですが、奇しくも同じ1927年生まれの『苦海浄土 わが水俣病』の石牟礼道子、『女の論理序説 族母的解放の始原』の河野信子、『ははのくにとの幻想婚』の森崎和江は、さらにもっとより深くより真相を暴き出し、研ぎ澄まされた表現力は文学の新しいかたちを創造するようにみごとな結実をみせています」
これは、私が高校生の頃に巡り合った1960年70年代のさまざまな雑誌の論文・エッセイを読んでいくうちに自然と浮かび上がってきた問題性でしたが、まさかあの、新宿・中村屋に潜んで日本にインドカレーを伝えたりインド独立運動を指導したボースや、東京裁判でA級戦犯全員無罪という破天荒の主張をしたパール判事を描いた中島岳志が、こういう問題意識に貫かれた本を出すとはまったく予想もしませんでした。
本書は、孫子の隔たりがある今年85歳のわが森崎和江との対談で、彼女の性差別・大衆対知識人・朝鮮と日本・辺境論・植民地主義批判などについて、半世紀以上の闘いの歴史と思想をひとつひとつ思いを込めて振り返り吟味する貴重な本です。
彼はかつて『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』(2005年)で、1915年に日本に亡命し新宿・中村屋に密かに身を隠してインド独立運動を指導した、そしてインドカレーを日本に伝えた人物でもあるラース・ビハーリー・ボースを描いて、大東亜戦争とナショナリズムを改めて断罪したり、そして『パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義』(2007年)では、戦勝国の独断制裁の東京裁判で、あえてA級戦犯全員無罪を宣言して、世界連邦の確立と日本の再軍備阻止・平和憲法死守を企図したインドのラダ・ビノード・パール判事の崇高な生涯を描いたりしましたが、この本のような谷川雁が主導したサークル村や大正行動隊の中で、深く先鋭に表現活動を繰り広げたわが森崎和江を媒介するとは、本当に思ってもみない予想外なことでした。
- 感想投稿日 : 2012年6月28日
- 読了日 : 2011年9月29日
- 本棚登録日 : 2011年9月29日
みんなの感想をみる