新刊コーナーで見つけて、あれっ同じ表紙で10年以上前に出たはずなのにと思いましたが、増版だったのでしょうか。
この本については苦い思い出があります。
目についた映画関連の本をかたっぱしから集めようと、何年か前までブックオフに毎日通っていた私は、およそ2,000冊に及ぶ映画に関係する書籍を集めましたが、きちんとリストアップして行ったわけでなくメモも取らなかったため、なんとこの本、といっても1976年に朝日新聞社から出た単行本ですが、下巻を3冊も購入するという“うっかり八兵衛”ぶりでした。
それはともかく、俳優の書いた随筆・エッセイというと池部良や沢村貞子のものが絶品だとつとに有名ですが、戦前・戦後にわたる国民的大スターの高峰秀子も、歯に衣着せぬ個性的な屈託のない洞察眼で、俳優生活を回想した本を何冊も書いたことで知られているようです。
日本の敗戦直後の男たちは、ただ放心して闇市を彷徨うばかりだったとか、映画界のパーティーは大嫌いだとか、天皇陛下はいい人だったとか、真の喜劇役者はたいてい孤独で生真面目だとか、女は宝石を身につけたくなったら最悪だとかなど、まあよくもこれだけ言いたいことをと思うほどですが、特に明確な主義主張があるわけではありませんけれど、たいした人間観察と驚嘆せざるを得ない断言に満ちていて感心します。
なかでも私がもっとも気に入ったのは、「納得のいかない勲章などが家の中に舞い込んで来ては始末に困る」といって、紺綬勲章の授与を断ったというエピソードです。
こういう常識的でない反骨精神旺盛な人物こそが、私がもっとも尊敬し愛する人なのですが、それからは、今まで見た明るく美しい実物をそのまま活かした役柄よりも、1960年の木下恵介監督作品『笛吹川』で85歳の老婆を演じた際の老醜の方が、みごとに美しく神々しいとさえ感じられる錯覚となって彼女を神格化させるほどになりました。
- 感想投稿日 : 2011年9月19日
- 読了日 : 2011年9月19日
- 本棚登録日 : 2011年9月19日
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