ぼんぼん (岩波少年文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (2010年7月15日発売)
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本棚登録 : 125
感想 : 17
5

大阪の、結構いいとこのぼんぼんであるひろしが過ごした小学校3年生から6年生の日々。
戦争と重なって、決して幸せばかりではなかったけれども、その中でも喜びや楽しみを忘れず、懸命に暮らす姿が生き生きと描かれ、児童文学ながらぐっと引き込まれて読みました。

ある日突然お父さんが亡くなります。
なかなか立ち直れない娘を気遣い、母方のおばあちゃんが同居してくれることになりました。
このおばあちゃんがしっかり者で、先見の明がある。
本や新聞や耳学問で先の見通しを持っているだけではなく、こまめに身体を動かして家族を支えますが、やはり突然亡くなってしまいます。
普通に暮らしていると見逃してしまうような些細な事柄から、この先の日本が戦争に向かっていくのではないかと考えたお父さんやおばあちゃんは、モノ不足になっても困らないように、数年分の必需品を買い置きしていたのには驚きました。

長男は家を出て軍隊に所属していたので、お母さんと中学生の次男、そして小学生の洋だけでは心もとないので、男手としてやってきたのが佐脇さん。
やくざをやめる時に洋のお父さんに恩を受けたということで、60代の佐脇さん、力仕事からご近所づきあい、時に台所仕事もやれば、ぼんぼんたちの成長を促すあれやこれやの目配りと、とにかくスーパーおじいちゃんなのです。

そして、この作品の見どころは、洋の成長だけではなく、戦中の佐脇さんの働きようにあると言えます。
元やくざということもあって、世間の噂に振り回されることなく世の中を見る佐脇さんは、軍や特高の裏をかくようにして洋たちにいろんな経験をさせてくれます。
肝の座り具合が半端ない。

一度特高につかまって、1年半ほど佐脇さんは姿を消しますが、洋たちが一番つらかった時に戻ってきてくれます。
なのに、玉音放送の直後、世の中が見えすぎていた佐脇さんは、命を喪ってしまいます。

この4年ほどの間に、何人もの命が洋のまわりから失われますが、それでもプラネタリウムや宝塚を観たりオーケストラの音楽を聴いたり、魚釣りに川遊び、京都の山に登ったり、和歌山まで出かけたり、洋の日常は彩りに溢れています。
それは、そういう生活を守ろうとする大人がいたからであり、声高に反戦を叫ばない多くの人が生きていた、ということでもあるのだと思いました。

大阪空襲で防空壕への避難命令が出たとき、洋とお兄ちゃんは、隣近所の数少ない男手として防空壕の外でいざという時に備えます。
全てを失った時も、お母さんにショックを与えないように、毅然とふるまいます。
佐脇さんの死をどういうふうに受け止めたのかは書かれていませんが、お母さんを支えながら戦後の時代を生きていく姿が最後に少しだけ書かれ、大きな成長をそこに見ることができました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月6日
読了日 : 2024年3月6日
本棚登録日 : 2024年3月6日

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