たまもの

著者 :
  • 講談社 (2014年6月27日発売)
3.31
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本棚登録 : 164
感想 : 26
5

40歳の時、幼なじみで昔の恋人だった男から赤ん坊を預かる主人公。
彼の妻は出産時に亡くなり、男手一つで育てることができないため、と、800万円と赤ん坊を渡される。
それからの10年間の話。

「迎えに来る」といった男は連絡が取れなくなって久しい。
不規則な編集の仕事では赤ん坊を育てられないので、せんべい工場で働くことにした。
赤ん坊だった山尾が小学校に入る年になった時、初めて役場に相談するが、そのまま彼女のもとで山尾は育つ。

特に山場も修羅場もないストーリーだけを追ってもこの本の面白さは伝わらないだろう。

私は子ども好きなので、子育てのあれこれの部分に多く付箋をつけてしまったけれど、この作品は子育てのすばらしさを謳ったものではない。
どちらかというと、成長していく子どもを通して、人の一生というか、老いることの当たり前に対する賛美なのかもしれない。

”「年をとるといつか、死ぬよね」
「そうだよ。でも、わかってるだろうけど、順番は守れ」”
ああこれ、私も伝えておかねばならないな。

”子はみんな、誰か特定の女の腹から生まれながら、そして一応は、どこか特定の家に繋がれた家畜のような顔をしながら、でも誰にも、どこにも所属しない、落ちてきたもの、捨てられたもの、誰のものでもない者、なんじゃないか。産んだ者の所有権、そんなものなんか、ないと、この偽の母は思う。”
私も所有権とか一心同体とか、ないと実感しましたね、孕んだとき。

”幼い子供と生きる人生の時間は、一貫性のあるキャリアを追求する生き方に比べ、遠回りの獣道。行く先々で、具体的な実りがあるわけではない。生きているものを世話する仕事は、為すそばから消えていく、むくわれない行為からできあがっているのだ。だから逆に、子供のいる女は、あきらめを知ることになる。この世には、できないこととできることがあることを知るようになる。いや、できないことだらけであることを知るようになる。(中略)つまり順当に老いることを学ぶ。”
子どもを育てる育てないにかかわらず、自分にはできないことが多いということを知っておいた方が結局はいい仕事ができるような気がします。
賢いとか、いい学校を出ているとかではなく、自分と違う思考で生きている人に合わせることができる人が、結局は仕事ができている。
子育ても、親の思いを押しつけるのではなく、子どもの気持を汲める方がよいのと同じ。

”ふわりと現れた山尾が、だから私のすべてだと言ってもいいが、そんなふうには言いたくない。どのように山尾と別れていくか。それが、これから先のわたしの課題。”
まったくその通り。
私と別れても問題なく生きて行けるように育てたつもりだから、あとはこっちの問題なんだよね。

”でも山尾は私でよかったのだろうか。黙っていると、須藤さんが言った。大事なのは――血じゃなくて、一人の子供に、誰か一人がずっとついててくれることですよね。(中略)血を、愛する理由にするのは変です。もし、血が家族であることの証をつくる唯一のものであるなら、家族を愛するといっても、結局自分を愛するのとなんら変わらないもん。”
今は自分と違う人を警戒して排除する傾向が強いけど、そういう社会は弱い。
家族であろうとなかろうと、血が繋がっていようといなかろうと、違うことを認め尊重し合うことができないのは、淋しいよね。

”よくできた子は、悪くにしかならない。悪い子なら、よくなることができる。よくできた子は、あるとき、ふっと消えてしまいそうでこわい。”
これもよく思っていた。
「最短コースで生きなくていいよ」と「いい子になってほしいのは親の本音だけど、大人にとって都合のいい子にはならなくていいからね」は実際に子どもに言ってきかせた。

ストーリーが単調なのに、ぐさぐさ刺さる言葉がてんこ盛りでまいった。
ふつうこれほどに読点が頻繁に打たれると却って読みにくくなるものだけど、するすると入ってきた言葉が読点をくさびにして腑に刻まれた感じ。
作家の言葉って怖い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月23日
読了日 : 2022年6月23日
本棚登録日 : 2022年6月23日

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