向井帯刀の発心 物書同心居眠り紋蔵 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2010年1月15日発売)
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目次
・与話情浮貸横車(よわなさけうきがしのよこぐるま)
・歩行新宿旅籠屋(ほこうしんじゅくたびかごや)
・逃げる文吉
・黒川清右衛門の報復
・韓信の胯(また)くぐり
・どうして九両(くれよう)三分二朱
・旗本向井帯刀(たてわき)の発心(ほっしん)

何の落ち度もないのに、というか逆に仕事ができすぎて、誰も紋蔵のように古文書の事例を扱えないので、せっかくの定廻り同心から物書き同心へ逆戻り。
収入も10分の1に戻る。

そんな時、紋次郎に養子縁組の話が持ち上がる。
長男を養子に出したので、次男まで養子に出してしまうと紋蔵の家の跡取りがいなくなってしまう。
断ろうとずるずるしているうちに…。

文吉も家を出てしまい、次女の麦も養女へ貰われていくことが決まり、紋蔵の家も寂しくなってきた。
家族の時が過ぎるってこういうことだなあ。

表題作「旗本向井帯刀の発心」は、なんとも切ない。
どこの誰の子どもに生れ落ちるか、それは選べるものではない。
あの日そこに落雷がなければ、馬が暴れなければ、向井帯刀が風邪をひかなければ、紋蔵に絵を見る目がなければ…。
数々の偶然が重なった結果明かされた、向井帯刀の生まれの秘密。
そしてそれを知った彼が旗本であることをやめ、仏門に帰依すると決めたことで起きた事件がまた、何の罪もない子どもにこの先苦労を強いることになるのだろう。

『親の因果が子に報い』とは、今よりももっと重い言葉だったのだろうと思う。
向井帯刀がいい人であればこそ、余計に残念な事件であった。
この件では紋蔵はかなり苦しい立場に立たされるが、最後までしらを切りとおすのである。意外と根性がある。

それに引き換え、家柄の良さを鼻にかけ、親子でねちねちと紋蔵一家に絡んでくる黒川清右衛門はたちが悪い。
とりあえず今回は閑職に落とされて一件落着だけど、いつか復活してくるかもしれないなあ。

さて「歩行新宿旅籠屋」は正しくは(かちしんしゅくはたごや)と読む。
この読み間違いが、紋次郎の運命を決めた。
漢字、奥が深いなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年1月16日
読了日 : 2019年1月16日
本棚登録日 : 2019年1月16日

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