読みごたえがありました。
それは本が分厚いからというのではなく、内容がヘヴィーだったから。
こんなにこんなに言葉を尽して他人と話したり自省したりするってことが、日本人はあまりないのではないだろうか。
けれどアメリカでの評価は掘り込みが浅い、だったそうだ。
欧米の恋愛は、または人間関係は、それほどにヘヴィーなのか。
愛している男・リックとの生活に疲れ果てている女・ココ。
ココはただ、リックを愛しているだけだ。
愛を伝える。
彼のために献身する。
二人の時間を楽しみたい。
しかし、そんなココの態度が、リックを追いつめる。
黒人として生まれ、幸せだったと思うことなく大人になったリックは、愛情というものがわからない。
いつも目に見えるものをしか信じない。
ココが何を望んでいるか、薄々わかっているけれど、ぞれはリックにとってとても怖いこと。
だって愛なんて見えないから。
リックの息子ジェシーは、幼い頃から父母の喧嘩を見て育ち、大人を信じることができない。
だけど、大人に面倒を見てもらわなければならない子どもであるという自覚はある。
つまりとても賢い少年なので、ココに懐かない。
ここにとってもジェシーは邪魔だ。
なのに、何で親でもない自分ばかりがジェシーの面倒を見なくてはならないのか。
そういう鬱屈から始まる物語。
リックはココと対峙することができず、毎晩酒を飲みに出かけてしまう。
”世の中の父親は、おやすみを毎日聞く義務を持たないのである。それは母親の義務だ。そして、ジェシーは、その母親ととうに離ればなれになっていたのだ。”
人種差別や、性的マイノリティに対する偏見など、頭ではわかっていても現実にはいろいろある。
”人間の社会は、思うよりもはるかに生理的なものに支配されていると、ココは、いつも考えるのだ。”
リックといても幸せになれないのなら、リックに幸せを与えることができないのなら、別れた方がいいのではないかとココは思う。
だけど、できない。
愛しているから。
しかし彼女の周囲では、愛し合っているのに不倫をしたり、気持ちが覚めたらさっさと次の人に乗り換えたりする人も多い。
ココは優しすぎるのだが、それは彼女の長所であり、短所でもある。
”何気ない顔をして、人よりも先に幸福を手にする人間。そういう人は、他人を憎んだりもせずに、いつも暖かい雰囲気を漂わせている。”
これはなかなか鋭い指摘だ。
”人間関係の中で、被害者である人間は加害者でもあるんだ。そのことの解らない人間は、愚かだよ。”
これは難しい問題。
いじめの被害者や虐待されている子どもに言うことはできないけれど、自分自身に対しては、絶対的被害者であることを免罪符にはしたくないと思う。
読みながらウクライナとロシアのことをちょっと考えた。
絶対的な被害者も絶対的な加害者もなくて、どちらにも言い分はあるという立場で話を聞かないと、何かを間違えてしまうのではないか。
関係性の中にある、というのは、そういうことだと思う。
- 感想投稿日 : 2022年3月8日
- 読了日 : 2022年3月8日
- 本棚登録日 : 2022年3月8日
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