読む前に思っていたよりも面白かったです。
衝撃的な設定だけで読ませるのではなくて、構成もきちんと計算されていて、ドミノが倒れるようにひとつの出来事が次の事件を作り出しているところが、とてもうまいなと思いました。
ただ、私が書店員だったら、この作品を推すことはないと思います。
本が好きで、ミステリを読みなれている人になら「面白かったよ」と言えますが、普段は本を読まないけれどなんか面白そうな本があったら読みたい、そういう人にはちょっと勧められない。
でも、本屋大賞受賞作って、そういう人たちが買っていくのよね。
実在の人物や出来事を簡単に想起させてしまうような描写が多いことも、ちょっと安易かと思いました。
女性教師の気持ち。無念。
それはよくわかります。
しかし、思うことと、実際にやってしまうことは全然次元の違う話です。
大人が、しかも教職者が、子どもに対して同じ土俵に立って復讐してしまうのは、気持ちはわかりますが、やはり読んでいてやりきれなかったです。
そして、さらには家族を…となると、命をなんだと思っているの?と怒りすら感じます。
女性教師は犯人の子どもたちをこう責めるのです。
「自分だけが不幸だ。自分だけは特別だと思うのは、甘ったれた寝言だ」
でも彼女は、自分の子どもの復讐を免罪符にして彼らを追い詰めていくのです。
事件前、犯人の子の倫理観の欠如を心配していた彼女が、躊躇なく倫理を投げ捨ててしまうのです。
それは「甘ったれた寝言」とは言いませんが、法を越えて裁く権利が彼女にはないことは言わずもがなです。
そして委員長。
彼女についての描写が少なすぎです。
彼女は聡明で、物事をよく見て分析のできる子です。
でも何か謎を抱えています。多分闇を抱えています。
その闇が書かれないままに終わっています。
それでも、そのうえでもやっぱりこの小説は上手いなと思いました。
いくつものエピソードが、多方向から語られることによって、当初は思いもよらなかった姿を見せてきます。
そのことによって、憎むべき犯人をかわいそうに思ったり、やっぱり憎んだり。
大人の狡さや、身勝手さ。
特に、母性については考えさせられました。
厳しすぎてもほめ過ぎても、近すぎても遠すぎても、子育てってうまくいかないものだとしたら、どうやって子どもを育てていけばいいんだろう。
- 感想投稿日 : 2015年7月28日
- 読了日 : 2015年7月28日
- 本棚登録日 : 2015年7月28日
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