晩夏に捧ぐ (成風堂書店事件メモ(出張編)) (創元推理文庫) (創元推理文庫 M お 5-2 成風堂書店事件メモ 出張編)

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  • 東京創元社 (2009年11月10日発売)
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感想 : 202
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私の中ではこのシリーズは、単行本ではなくて文庫本で読みたいと決めている。その理由は、表紙に杏子と多絵が描かれているので、二人をより近くに感じることができるからだ。
が、本作は最後に「杏子さんた多絵ちゃんと私」の4コマ漫画が挿入されていた。『ちょっと、待ってー』表紙の杏子と多絵をイメージしながらずっと読んでいたのだが、この漫画のふたりが意外と私のイメージからは遠く…漫画の多絵の方が隙がなさそうに見える?杏子は、黒髪なのだが、眼鏡をかけている?、すでに出来上がっていた私のイメージを崩そうとする…
こうして考えると、表紙絵の重要さってあるんだなぁと、「クローバー・レイン」の工藤彰彦の表紙絵決定の描写が私にとっては、とてもインパクトが大きかったことを考察する。

駅ビルの書店「清風堂」では、またもや書店のアルバイト学生・西巻多絵が雑誌『パレード』をめぐる刑事事件で見事に容疑者扱いをされていた篠塚のアリバイを証明した。そのことを書店員・杏子は、かつての同僚・有田美保に電話で話をしたところ、美保から多絵目当ての手紙が杏子の元に届く。
美保は、二年前まで清風堂で働いていたが長野に戻り、地元の老舗書店「宇津木堂書店」に勤めている。
「宇津木堂」から通称「まるう堂」と呼ばれるこの書店で、最近、幽霊が出るようになり、「まるう堂存続の危機」をアルバイト名探偵の多絵を連れて助けに来て欲しいというものであった。老舗書店を救うべく二人は信州へ行く。
二十七年前に弟子の小松秋郎に老大作家・嘉多山成治が殺害された。その殺人事件に繋がる幽霊の謎を4人の関係者との会話をもとに多絵が見事に解き明かしていく。いつもの清風堂を飛び出し、信州で事件を解決していくので、(出張編)となっているが、出張ではなく(旅行編)でしょう?突っ込んでしまった。

今回は短編集ではなく長編であった。短編集より長編物が好きなので、期待大で読み始めた。本作は獄中で病死した小松秋郎が犯人ではないということを匂わせた展開で物語が進んでいく。(このシリーズの展開として、幽霊が出たと言っても、「それはやっぱり幽霊でした」で終わるはずがないのだから!)

美保のセッティングで杏子と多絵が会話をした人物は4人。この中に犯人がいるはず!

嘉多山久嗣:本宅を相続した甥。事件当時は22歳の画学生だった。現在はプロの画家として、すぐ隣に別棟を立て住んでいる。嘉多山成治の遺志を尊重し庭ごとそっくり屋敷を残していたが、今回、売却をする。

壱橋亜矢子: 旧家のお嬢様で、小説家を夢見る小松秋郎と付き合っていたが、嘉多山成治との結婚話が進んでいた女性。事件から五年後、秋郎の病死から三年後に再婚している。

野沢裕一: 嘉多山邸に住み込んでいた、書生のひとりで、現在は地元公立中学の教頭である。事件当時は29歳で、作家の道を断念し教職に就いた。

根本佳江: 事件当時は住み込みのお手伝いであったが、事件から三年後、地元の男性と結婚して現在は夫婦で蕎麦屋を営んでいる。8月11日夜中に店で大きな音がしたので、夫婦と子供たちとで店に駆けつけた。その間に母屋に人が入ったが、荒っぽく引っかき回されてはいたが何も盗まれていなかった。

スペシャルゲストとして、美保が面会を設定していた事件担当の刑事・加藤浩伸。現在は、県警の警部。いかつい風貌の、迫力ある中年男性。髪の毛をオールバックしにて撫でつけている。ぎょろりとした目の上に分厚い眉がのっかっている。笑うと目尻に皺がよりひとなつこい顔になる。清風堂にアリバイを調べに来た刑事たちの知り合いで、先日の多絵のアリバイ事件の解決に関心を持っていた。
 
まず、今回、犯人として獄中病死した小松秋郎は、犯人ではないということ。そうなると、犯人は別にいるのであれば、現在も作家である石丸多遜は、犯人ではないだろうと推測した。では、なぜ秋郎は犯人ではないと主張しなかったかのか?誰が嘉多山成治を殺害したのか?と気になる。
まず、秋郎が犯人であることを受け入れる理由を考える。
1.誰かをかばっている(ドラマにありがちな展開。例えば、恋人、家族、秋郎を慕っていた子供たち)
2.誰かに脅されている
3.何かの罪の償いをしている

そこに秋郎の兄の死の事実飛び込んできた。少々鈍い私でも『もしかして!』と、考えるが、秋郎が黙っている理由の意味が今ひとつしっくりこない。
最後はあっけなく犯人がわかるのだが、正直な感想を言えば、いつものテンポで事件が解決していく方が、読みやすくて、記憶に残りやすいなぁと思った。

そしてなんと言っても、多絵が清風堂でアルバイトをするきっかけは、たまたま塾のバイト帰り、清風堂に寄ったところ、お客相手に当時の多絵が気にしていたキーワードを杏子が口にしたという。
その杏子の言葉「自分の歩いている道がね、死ぬほどつまんない一本にら思たんですよ。そしたら杏子さん、お客さん相手に言いました。『どんな道でも、ほんとうは横道や脇道だらけ』って。『たまにはそっちを歩いてみればいいのに』って」それって、、清風堂で働くことが脇道っていうこと?と、思った私はひねくれているのだろうか??
そして、その言葉に救われた多絵はどれほど精神的に病んでいたのだろう…まだ若いのに…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年4月27日
読了日 : 2021年4月27日
本棚登録日 : 2021年4月27日

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