毎日が同じことの繰り返しで、自分が機械の一部になったような気持ちになったことはありませんか?しかも、何かの権威に服従するような形で。思い返せば中学高校の生活は、そうなのかもしれません。みんなが慣れていく中、そして、それが大人になることと教えられる中、それに耐える日々は苦痛かもしれません。本書は、そのような日々を過ごす男子高校生のお話。彼は夏の間だけ大伯父の兼定のところへ居候し、その日常から逃れますが、岡田という店員の料理の手さばきなどを見て、また、自ら主体的に鍛錬するための繰り返し作業は、その人の人となりを生み出すことを知り成長する、というお話です。
鴨長明は『方丈記』で「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。」と書きましたが、本書でも波打ち際の泡を人の人生に例えて、登場人物たちの身に起こった人生を振り返ります。主人公は呑気症を抱えており、それが屁(水中では泡)となって出ていきますが、彼の心情と連動しているかのように思え、象徴的です。
ひと夏の滞在の中で主人公の薫が何を学んだのかを読み取ると、その中に、自分を重ねて色々な学びを受け取ることが出来るように練られた一冊でした。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説(一般)
- 感想投稿日 : 2023年2月28日
- 読了日 : 2023年2月27日
- 本棚登録日 : 2023年2月27日
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