日本人のための日本語文法入門 (講談社現代新書)

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  • 講談社 (2012年9月14日発売)
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これは面白い。買った当初は学校で習った国文法についての本だと思っていたが、本書が扱うのは外国人が学ぶための「日本語文法」。考えてみれば外国人が日本語を学ぶのに、日本語を自在に操れる日本人が学校で学ぶのと同じ文法では身につかないのかもしれない。

「主語は重要ではない」(p.16)というのは主語を書かないことも多い日本語では受け入れやすいはずだが、一方で学校文法では主語と述語が大切であるように習った記憶がある。この点、日本語文法では、主語は目的語や修飾語と同列の「成分」に過ぎないという。

「は」という助詞についても、学校文法では「が」と同様に主語に続くと教えられるが、日本語文法において「は」は主語を表さない。

「そのお菓子は弟が食べた。」なら「お菓子」は目的語だし、「その池は魚がたくさんいる。」の「その池」は場所を表す。これらは、主題化するために前に出されたのだというのだ(pp.43〜44参照)。考えてみれば、「象は鼻が長い」(p.46)の主語について、「は」・「が」を伴うのが主語と考えたら、「象」も「鼻」も主語ということになる。

また、本書の内容は英語を学ぶ上でも有用だ。例えば、目的語に目に見える変化を及ぼさない「無対他動詞」(「ドアをたたく」など)についての理解があれば、I visited London. とは言えても、×London was visited by me. が意味不明な誤文であることも理解しやすいだろう。

また、間接受身文について知っていれば、「(私は)スリに財布を盗まれた」を、日本人の中高生が×I was stolen〜 と誤訳する理由も日本語と英語の差異からきちんと説明することができる(p.85参照)。

今まで何も考えずに使っていたがよく考えてみればどうやって使い分けていたのかと思うことも多々ある。例えば次の2文(p.132)。

1. 日本に来る時に、友達がパーティを開いてくれた。
2. 日本に来た時に、友達がパーティを開いてくれた。

日本人であれば、1.は来日前に海外で、2.は来日後に日本で開かれたパーティであることがすぐに分かる。しかし、これを外国人の日本語学習者が使い分けるには、「相対テンス」(p.133)についての理解が必要だ。

更には、次の8文。

1. 私の家族は日本に来たいです。
2. 山田さんは眠い。
3. 私の家族も日本に来たかった
4. 山田さんも眠かった
5. 日本に行きたいですか?
6. 眠いですか?
7. 君も一緒にサッカーをやりたいですか?
8. 先生もお菓子を食べたいですか?

ひょっとすると多少の個人差はあるかもしれないが、何の疑いもなく受け入れられるのは、3,4,5,6,7だろう。「〜たい」は、基本的には話者についてしか使えないが、過去形なら三人称でも使え、疑問文ならば二人称でも使用可能。ただし、目上の人には使えない。

こんな法則になりそうだが、日本語ネイティブは何も考えずに使い分ける。しかし、日本語学習者に果たしてどう説明すればいいのか。何かしら合理的な説明を付けなければ覚えきれないし、丸暗記できたところで、いちいち考えなければ使えないのでは使いこなしているとは言えない。

こんな話が随所に散りばめられていて、脳みその普段使っていない箇所を大いに刺激してくれた。私自身は日本語文法には完全なる門外漢であり、本書の内容をどこまで鵜呑みにしてよいのか分からない面はあるが、日本語について考える上でも、英語などの外国語を学ぶ上でも、様々に示唆を与えてくれる良書である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年8月12日
読了日 : 2023年8月11日
本棚登録日 : 2023年8月11日

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