迷宮 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2002年5月17日発売)
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「清水義範」による長篇ミステリ小説『迷宮』を読みました。

『ifの幕末』、『夫婦で行く意外とおいしいイギリス』、『老老戦記』に続き「清水義範」作品です。

-----story-------------
24歳のOLが、アパートで殺された。
猟奇的犯行に世間は震えあがる。
この殺人をめぐる犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書…ひとりの記憶喪失の男が「治療」としてこれら様々な文書を読まされて行く。
果たして彼は記憶を取り戻せるのだろうか。
そして事件の真相は?
言葉を使えば使うほど謎が深まり、闇が濃くなる―言葉は本当に真実を伝えられるのか?!
名人級の技巧を駆使して大命題に挑む、スリリングな超異色ミステリー。
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パスティース小説の名手で、SF小説や歴史小説、エッセイ等、幅広い作品群を発表している「清水義範」による本格ミステリ作品、、、

ストーカー殺人という今日的な犯罪を、犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書等の様々な文書により描いた作品… 序盤からぐいぐい引き込まれ、終盤まで盛り上がるのですが、作者の意図が読み取れない曖昧なオチだったので、ちょっと消化不良な感じでしたね。

 ■一日目(犯罪記録)
 ■二日目(週刊誌報道)
 ■三日目(手記)
 ■四日目(取材記録)
 ■五日目(手紙)
 ■その七日後(供述調書)
 ■さらに八日後
 ■解説 茶木則雄

24歳の独身OL「藤内真奈美」が、カラオケ・コンパで知り合った男「井口克己」に、軽い気持ちで電話番号を教えたのが、悲劇の発端だった… 無言電話や嫌がらせ等、「井口」のストーカー行為は徐々にエスカレートし、ついには、独り暮らしの彼女を狙って自宅アパートに侵入、、、

絞殺のうえ、用意したアーミー・ナイフで性器を切り取るという猟奇殺人に発展する… しかも、「井口」は、切り取った性器をアイスクリームの1リットル入りカップに詰め、自室の冷蔵庫に保管していた。

のちにアイスクリーム殺人事件と呼ばれ、世間を震撼させたこの事件の概要が、、、

事実関係のみに重点を置いた犯罪記録、
犯人の家庭環境や事件の社会的背景に踏み込んだ週刊誌報道、
事件に興味を抱いた作家「中澤博久」の手記、
「中澤」が関係者にインタビューしたものをまとめた取材記録、
先輩作家「須藤陽太郎」に送った手紙、
犯人自身の供述調書、
そして「中澤」の描いた作中作と「須藤」の覚書、

という8つの文体で提示されます… これらの文体は、記憶喪失となった犯人と思われる「私」に対し、治療師が体面治療の過程で患者に読ませ、喪われた記憶を呼び覚ます一助として扱われます。

ぼんやりとしていた事件の輪郭が、読み進むうちに次第にくっきりしてきて、犯罪記録や週刊誌報道の記載に疑問を持ったり、被害者の人物像が変化してきたりする展開は愉しめましたね… 治療師(=多分、作家の「中澤」)も、かなり病的な感じがするし、自分の都合の良い方に事実を捻じ曲げていると思えるので、結局、真の動機は藪の中(だからタイトルは『迷宮』?)でしたね、、、

あっと驚く結末が用意された叙述トリック作品だと思っていたので、ちょっと肩透かしを喰らった感じ… もしかしたら、8つの文体に真相が埋め込まれていたのかもしれませんが、私の読解力では読み取れなかったなぁ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: <読む>ミステリ(国内)
感想投稿日 : 2023年3月30日
読了日 : 2019年12月4日
本棚登録日 : 2022年3月11日

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