ヨーロッパ世界の誕生 マホメットとシャルルマーニュ (講談社学術文庫)

  • 講談社 (2020年7月10日発売)
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感想 : 8
5

 はるか以前から創文社版を積ん読のままだったのが、創文社の事業中止に伴い、今般、学術文庫として刊行されたことに感慨を覚えながら、改めて購入することとしたもの。

 ピレンヌ・テーゼという言葉は知っていたが、本書を通読して、その内容が一応理解はできた。全体を通して、ローマ帝国及びその内海であった地中海の圧倒的な歴史的重みと、イスラム勢力の拡大がヨーロッパに与えた歴史的影響の大きさを、そのシャープな叙述で明らかにしているところが非常に印象的であった。

 訳者あとがきにもあるとおり、本書は、綿密周到な「研究」を裏に潜めながらも、研究とは一応区別される「叙述」になっているところに、一般読者としては魅了された。ゲルマン民族の移動によってもローマ世界は連続性を維持していたのであり、それが断絶し、「ヨーロッパ」が誕生したのは、イスラム勢力により西地中海における交通が遮断され、経済的、通商的に大変動を来したことに由来することを、おそらくは膨大な社会経済史的な研究蓄積を背景に持って著者は明らかにしていく。

 同じくフランク王国といってもメロヴィング朝とカロリング朝では国家政体が全然異なること、イスラム以前は東ローマ帝国が西方世界に対しても大きな影響力を持っていたこと、東方教会とローマ教会の対立、そしてヨーロッパ世界の確立に教皇庁の動向が重要であったことなどが、本書の叙述全体によって、立体的なイメージを持って理解できた。

 おそらくは、著者以降の歴史研究の進展により、例えば商業の規模や貿易品の実態を始め各分野で異なる事実や史実評価が出てきているのかもしれないが、本書の面白さに変わるところはないと思う。

 欲を言えば、文庫本として一般読者向けに出すのであるから、本書の扱っている時代が、ヨーロッパから中東に至る500年以上の歴史を扱っているので、年表は付けてもらいたかった。また、人名索引は付いているが、あまり馴染みがないので、王朝各王の系図と在位年が分かる表は欲しかった。

 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月16日
読了日 : 2020年8月15日
本棚登録日 : 2020年8月15日

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