中国などの権威主義と言われる国々は、社会主義を経て資本主義化したこともあり、亜流の資本主義国家と見なされることが多い。そのため、民主主義化しない中国経済は(純粋な資本主義ではないため)早晩行き詰まるという主張があったが、鈍化しない中国経済を受けて、この主張も信憑性が疑われ始めてきた。そのような背景もあってか、本書では中国に代表される政治的資本主義と、米国に代表されるリベラル能力資本主義をフラットに比較した上、今後の資本主義のあり方を考察している。
政治的資本主義では、国民の審判を受けることなく、一部のエリートが国の舵取りを担うため、人権侵害など大多数の国民が反対するであろう施策もやってのけるし、方向転換も困難。その代わり、高い成長率を維持し続けることで、国民に現体制の利点を示し続ける必要がある(利点を示すのが難しくなると、情報統制で隠そうとするのかもしれない)。一方、リベラル能力資本主義でも、一部の富裕層が献金で政治介入するため、彼らに不都合な施策は実施されないし、富裕層は資本と労働の双方で高い所得を得るため、富の偏在は進む一方となる。
このようにどちらも完璧ではないが、本書では、それでも資本主義よりマシな制度は見当たらないということで、所得の不平等と永続的なエリート層の形成を打破した次なる資本主義として、民衆資本主義を示している。
政治的資本主義に対する客観的な分析も、問題はありながらも資本主義の枠組みの中で調整していくしかないという結論も、地に足がついてて納得感があった。
また、共産主義の歴史的な位置付け等、目新しい視点もあった。共産主義を最終ゴールと考えるマルクス主義者でも、ただの回り道と考えるリベラル派でもなく、本書では、封建主義から資本主義に移行する過渡期として共産主義を捉えている。確かに、社会の発展経路は一律ではない(西洋諸国と同じ経路で、他国も発展するとは限らない)という前提で歴史を振り返れば、その通りかもしれない。
- 感想投稿日 : 2022年5月25日
- 読了日 : 2022年5月23日
- 本棚登録日 : 2022年3月21日
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