映画を観た友人「何であの人、この可愛い子ちゃんに声かけないの? 」
私「ただ見てたいから」
圧倒的な美の前で、老芸術家は言葉を失い、ひれ伏す(作家だから饒舌とも限らないのだ)。最盛期であれば、美しい者の血を吸い尽くし、作品の贄にして棄てただろう。実年齢の問題よりもむしろ生きることに疲れて老いた彼は、力学関係の逆転により、残り少ない生気を吸われる側に転ずる。
声をかけると幻滅するから。知り合えばやがて別れが来るから。自分が老いて醜いのに対し、あの少年は若い神のように眩しいから。それはそうだが、それだけでもないのである。ただ見つめ、幻惑されていたい。最後の夢を見ながら深い眠りにつきたい。
峻厳な北の都市から退廃に満ちた南の国の海にやってきた知識人の心のありようは想像するしかないが、手の届かない熱・耀きへの憧れそのものを語る作品のように感じられる。
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- 感想投稿日 : 2022年5月21日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2022年2月19日
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