陰惨で、同時にこの上なくロマンティックで、という取り憑かれるほど好きな作品が、クリスティにはいくつかある。上位3作はホロー荘、謎のクィン氏、終りなき夜に生れつく。Towards Zeroはタイトルが断トツ。
どれも、トリックがどうということではなく、心の機微とその描き方にえもいわれぬ魅力があるのだ。
雪白と薔薇紅ね。(グリム童話、覚えてる? ラストで都合よく登場する王子の弟というくだりに、幼心にさえ胡散臭さを感じたものだ)この、儚げな妖精ふうの雪白タイプに、クリスティはある種の憧れを抱いている気がする。著者自身は作中に登場する「てきぱきとものごとを処理する実際的な」メアリ・オルディンに近いから。メアリは、人生の華やかな面から置いてけぼりにされた地味な女として描かれるのかと思いきや、教養もあり有能で人に好かれ…とレディ・トレシリアンがべた褒めしてるとこを見ると、自分と同じタイプのすべての女性に対するクリスティの共感と敬服を感じられる。そんなふうに登場人物の描写を味わいながら何度でも愉しめる。
ラストで誰と誰が結ばれるか、ちょっとした一文に工夫を凝らしてあるのも心憎い。
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- 感想投稿日 : 2023年2月24日
- 読了日 : 2023年2月24日
- 本棚登録日 : 2023年2月24日
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