またしても木原善彦さん訳。
訳文もさることながら、作品紹介のコンシェルジュとしても信頼しているところがあり、なんとなく選んでしまう。
で、今回も例外なく楽しい読書でした。
『民のいない神』というタイトルの真意は、「神から生じたものは全て、神を見つめ返すときにのみ生を得る」という一文に集約されていると考えてみる。
神々はそこにいる。が、多くの人間は神を見つめることもない。すなわち「生を得る」こともないままだ。
本物の宗教体験に突き動かされて、というより、親族や歴史のしがらみから受動的に信仰を選択し、他を排除する人々。
在米イラク人たちの複雑で奇妙な信仰のあり方。神の介入する隙もない、人間たちのグロテスクな社会。
現代はいまだ生を得ていない者たちで溢れる「民のいない」砂漠だ。そこで思いもよらない奇跡を体験した人間は、神を見つめ返せるのか?
というようなことを考えながら読んだ。
不可解なことも多く、いろいろ考察とか読んでみたいけど、日本語のものはあまりネットとかには無さそうだった。
とはいえ、本書は謎解きを楽しむ作品とも違うような気がする。むしろ“不合理ゆえに吾信ず”っていう心構え、神話的想像力みたいなものを必要とする小説だと思った。
個人的には、イラク派遣の模擬演習のために作られた虚構の村ワジ・アルハマムの章が忘れがたい。中東の少女がナイトビジョンで米軍人たちのゲームのような視界を追体験するシーンに言葉を失う。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年8月8日
- 読了日 : 2019年8月6日
- 本棚登録日 : 2019年8月6日
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