銀河鉄道の父 (講談社文庫)

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  • 講談社 (2020年4月15日発売)
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私がいた大学に深澤教授という学生闘争以前の大先生がいた。西洋哲学のゼミを物色していた私が『宮沢賢治研究』という見出しを見た際、「気持ち悪っ」と思って他ゼミに流れたことがある。

卒業後その記憶も薄れて、緒方直人主演の『宮沢賢治物語』をたまたま見た。最愛の妹トシの死、そして賢治の死を画面で見てしまい一人アパートで号泣。
雨ニモマケズをすぐ印刷して壁に貼り付けた。そのA4用紙も転勤で何処かへ消え失せた。

どうも縁がない。
宮沢賢治は私の元から逃げていく。それが復縁できそうな予感。ほぉー、賢治はイタズラっ子だったのか。私の子どもと同じじゃないか。そりゃ逃げるわな。
ここにきて賢治を全て受け止めた父・政二郎の生き方が、心の内側にズシンと響いてくる。


── 仕事があると云う事の最大の利点は、月給ではない。所謂、生きがいの獲得でもない。仕事以外の誘惑に人生を費消せずに済むという、この一事に他ならないのである─

定職につかない賢治が教師になった時の、政二郎の心境が綴られている。作文に生きることが良かったのか。教師や、あるいは田畑の研究に勤しむ道が良かったのか。その答えは後世の私たちですら分からない。

この作品に描かれる賢治はどうしようもなくリアルだ。生きている。それが気持ち悪いほど伝わってくる。しばらく宮沢賢治の詩作に耽ろう。深澤先生のゼミを受けておけば良かったのだ。もっともっと深く賢治を知れただろうに。

悔いられる。
珠玉の名作。

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感想投稿日 : 2023年12月8日
読了日 : 2023年12月8日
本棚登録日 : 2023年11月22日

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