武蔵野をよむ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2018年10月20日発売)
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感想 : 8
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明治30年代に発表された国木田独歩「武蔵野」を読み込むことを趣旨とした本である。

この本の主な主張は以下の通りである。
①国木田独歩が武蔵野の美を発見した散歩には恋人を伴っており、恋が武蔵野の美の発見と結びついている。
②「武蔵野」研究では、これまで近代以前の感性(名所や歌枕という回路を通して風景に触れること)と切り離された、独自の感性を打ち出した作品として見られてきたが、実は近代以前の美意識とも独歩は接続しているのではないか。

独歩の「武蔵野の美を発見する」という回路が何によって構築されたものなのか、をめぐる仮説として①②ともに興味深いものではある。また、武蔵野が人工林(人々が生活のために切り拓き、適宜管理してきた林)であることや、武蔵野が後代のガイドブックに取り上げられて世俗化した観光地になっていく指摘なども、「武蔵野」の理解を深める一助となる情報だ。

だが、文章がかなり冗長であり、大変読みづらい(というか読んでてて飽きてしまう)。主張される内容自体は興味深くありつつも、同じ内容を言い方を変えて延々と繰り返しており、論理的な根拠の薄い指摘も多い。さらに、それらの主張が「〜なのではないか」「〜に注意を向けるべきである」といった言い回しが繰り返され、「だったらちゃんと証拠を挙げて論証してくれ」と感じざるをえない。

もし独歩の「武蔵野」について理解を深めたければ、この本ではなく(本書にも繰り返し引用されているが)川本三郎『郊外の文学誌』をお薦めする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年7月31日
読了日 : 2022年7月31日
本棚登録日 : 2022年7月31日

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