作家、俳人、翻訳家の倉坂鬼一郎さんが集めた『怖い短歌』アンソロジー。
西行法師から谷川電話まで、幅広いラインナップ。
《怖ろしい風景》《猟奇歌とその系譜》《向こうから来るもの》《死の影》《内なる反逆者》《負の情念》《変容する世界》《奇想の恐怖》《日常に潜むもの》の9章仕立て。
総収録短歌数は570首。
ぞっとするもの、ピンと来なくて倉坂さんの解説を読んでハッとするもの、様々な三十一文字が読むものを恐怖の世界に誘ってくれた。
私はよくも悪くも鈍いので、怖いと喜んじゃうんだけど、苦手な方は注意かもしれません。
歌人というのは、あの世とこの世の境目、通常と異常の境界線まで降りていって、その景色を三十一文字で伝える芸術家なのでしょう。なんて。
石川啄木の
〈一度でも我に頭を下げさせし
人はみな死ねと
いのりてしこと〉
は、前から大好き。
そんなこと思ったことないけどね…。
〈目の前の死のストレスが肉質にかかはる豚はやさしく押さえる〉池田はるみ
〈盛り塩のやうに置かれるスマフォかなひとりひとりのスターバックス〉大松達知
〈腸詰に長い髪毛が交つてゐた
ジツト考へて
喰つてしまった〉夢野久作
〈だれの悪霊なりや吊られし外套の前すぐるときいきなりさむし〉寺山修司
〈うしろの正面……誰もいる筈なき闇に言い当てられしわが名その他〉永田和宏
〈逆光にのっぺらぼうが現れてすれちがうとき人間になる〉佐原八津
〈死者といふ名をもつ若き園丁がちかづいてくる薔薇をなほしに〉大辻隆弘
〈こはきもの失せたるときに髪の毛を三つ編みにして死が立ってゐる〉山田富士郎
〈つり革に光る歴史よ全員で一度死のうか満員電車〉望月裕二郎
気になった歌の引用元はみな巻末の文献一覧で参照できる。
穂村弘さんや東直子さん、笹井宏之さん、木下龍也さん、笹公人さんなども選歌されています。
他に気になったのは中澤系さん。
〈牛乳パックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に〉
〈3番線快速列車が通過します理解できない人は下がって〉
〈いや死だよぼくたちの手に渡されたものはたしかに癒しではなく〉
〈ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ〉
残念ながら2009年に38歳で亡くなられたそうです。
惜しい。
- 感想投稿日 : 2022年10月12日
- 読了日 : 2022年11月6日
- 本棚登録日 : 2022年10月12日
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