怖い短歌 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎 (2018年11月30日発売)
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本棚登録 : 143
感想 : 20

作家、俳人、翻訳家の倉坂鬼一郎さんが集めた『怖い短歌』アンソロジー。

西行法師から谷川電話まで、幅広いラインナップ。
《怖ろしい風景》《猟奇歌とその系譜》《向こうから来るもの》《死の影》《内なる反逆者》《負の情念》《変容する世界》《奇想の恐怖》《日常に潜むもの》の9章仕立て。
総収録短歌数は570首。

ぞっとするもの、ピンと来なくて倉坂さんの解説を読んでハッとするもの、様々な三十一文字が読むものを恐怖の世界に誘ってくれた。

私はよくも悪くも鈍いので、怖いと喜んじゃうんだけど、苦手な方は注意かもしれません。

歌人というのは、あの世とこの世の境目、通常と異常の境界線まで降りていって、その景色を三十一文字で伝える芸術家なのでしょう。なんて。

石川啄木の

〈一度でも我に頭を下げさせし
 人はみな死ねと
 いのりてしこと〉

は、前から大好き。
そんなこと思ったことないけどね…。

〈目の前の死のストレスが肉質にかかはる豚はやさしく押さえる〉池田はるみ

〈盛り塩のやうに置かれるスマフォかなひとりひとりのスターバックス〉大松達知

〈腸詰に長い髪毛が交つてゐた
 ジツト考へて
 喰つてしまった〉夢野久作

〈だれの悪霊なりや吊られし外套の前すぐるときいきなりさむし〉寺山修司

〈うしろの正面……誰もいる筈なき闇に言い当てられしわが名その他〉永田和宏

〈逆光にのっぺらぼうが現れてすれちがうとき人間になる〉佐原八津

〈死者といふ名をもつ若き園丁がちかづいてくる薔薇をなほしに〉大辻隆弘

〈こはきもの失せたるときに髪の毛を三つ編みにして死が立ってゐる〉山田富士郎

〈つり革に光る歴史よ全員で一度死のうか満員電車〉望月裕二郎

気になった歌の引用元はみな巻末の文献一覧で参照できる。
穂村弘さんや東直子さん、笹井宏之さん、木下龍也さん、笹公人さんなども選歌されています。

他に気になったのは中澤系さん。

〈牛乳パックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に〉
〈3番線快速列車が通過します理解できない人は下がって〉
〈いや死だよぼくたちの手に渡されたものはたしかに癒しではなく〉
〈ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ〉

残念ながら2009年に38歳で亡くなられたそうです。
惜しい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 短歌
感想投稿日 : 2022年10月12日
読了日 : 2022年11月6日
本棚登録日 : 2022年10月12日

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コメント 7件

111108さんのコメント
2022/10/12

5552さん、こんばんは。

怖いです‥見てるだけで怖い。声に出しては読めません。
5552さんのあげてた歌の中で一番怖かったのは〈腸詰に長い毛が〜〉の夢野久作。それと石川啄木です。具体的かつ憎悪感じるのが苦手なのかも。

5552さんの気になった中澤系さんの歌は病に倒れ夭折したという事を知っているためか、冷静に死を見つめてるような気がしてそんなに怖く感じないのですが、どんな気持ちで詠んでいたかと思うと重くて切ないですね。

傍らに珈琲を。さんのコメント
2022/10/12

興味深い!
怖いもの見たさで手に取りたいと今は強く思うけど、
感受性の高い日もあるので気を付けないとヤバそう。
うーん、どうしよう!でもこのどうしようと迷っている気持ちすら楽しい(笑)

中澤系さん、存じ上げなかったのだけど、凄いですね。
5552さんが挙げて下さった4句全てが、静かにヒタヒタと迫ってくる狂気に震えます。
快速列車が一番リアルで怖い…。

5552さんのコメント
2022/10/13

111108さん、おはようございます。

あらためてこうやってずらっと並んだ歌を眺めてみると、陰のパワーというか、おどろおどろしい雰囲気が画面から漂ってきますね。

啄木と久作の歌はどちらも《猟奇歌とその系譜》の章です。
啄木は借金魔で、お金を借りるために頭を下げまくっていたことが、この歌の背景にあるのではないか、と、言われているそうです。
プライド高かったんですね。

中澤さんは、驚くほど肌に合うというか水が合うというか、しっくりきたので、いつか歌集を買おうと思っています。
病魔と戦い、命の期限を感じる中で詠む気持ち……。
のほほんと生きている自分には想像もつきません。


5552さんのコメント
2022/10/13

傍らに珈琲を。さん、おはようございます。

おお、興味を持っていただいて嬉しいです。
でもほんと、感受性強い方はあっちの世界に連れてかれそうで、もっと怖いかもしれません。
感受性の波、確かにあります。
普段スルーしている些細なことになぜか気がとまり、大きな感動を覚えたり。逆に恐ろしく感じたり。

中澤さん、ヒタヒタと迫って来るものがありますよね。
3番線の歌は、
〈3番線快速列車が通過します(自分の歌を)理解できない人は下がって〉
なんでしょうか。
強い孤独を感じます。

111108さんのコメント
2022/10/13

5552さん、お返事ありがとうございます。

私が怖かったのは《猟奇歌とその系譜》なんですね、なるほど。啄木の歌と借金魔エピソードは教科書のイメージとかなり違って印象深いです。

中澤系さんが5552さんにとって「肌に合うというか水が合うというか、しっくりきた」というの、そういう歌人との出会いもあるんでしょうね。ただ単にいいなぁというのとはちょっと違うレベルなんですね。
前図書館で借りた『中澤系歌集uta0001.txt』はとてもよかったです!‥とても切なくなるのですが。

5552さんのコメント
2022/10/13

111108さん、返事のお返事ありがとうございます。

石川啄木の教科書に載っていない顔にご興味があれば、枡野浩一さんの『石川くん』をどうぞ。
啄木フォロワーの枡野さんが、濃厚な愛をもって、「石川くん」の短歌と人となりを紹介しています。
好き嫌い分かれる本の内容かもしれませんが。

短歌のアンソロジーとか読んでると、歌人によって、どうしても、好き、とか、分からんけど気になる、とか、全然分からん、とか出てきますよね〜。
その中でも強烈に惹かれる短歌を詠む歌人もいて、面白いです。
中澤さんの歌集、早く読みたいです。



111108さんのコメント
2022/10/14

5552さん、こんにちは。
お返事ありがとうございます!

枡野浩一さんの『石川くん』読みたいです。枡野さんはお名前聞いたことあるけど、歌とか小説とか読んだことまだないです。啄木への〝濃厚な愛〟感じでみようと思います。

歌人の、好き、分からんけど気になる、全然分からん、ってありますね‼︎
好き、にもいろいろあって、面白くて好きな笹公人さんとか、優しくて好きな木下龍也さん堂園昌彦さんとか、その名前聞いただけで(!)うっとりするほむほむや東直子さんとか、楽しい歌人ランキングごっこしてしまいます♪

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