『不思議の国のアリス』を芥川龍之介と菊池寛が翻訳したバージョン。正確に言うと芥川の死後に、残った部分を菊池が引き継いで翻訳したものだそう。誤訳や脱落箇所を澤西祐典さんが補い「完全版」としている。
この時代の翻訳の特徴と言えるかもしれないが、「タルト」が「お饅頭」だったり、「ティーカップ」は「茶呑み茶碗」だったり、当時の日本の子供達に馴染みのあるものに置き換えられて訳されているのが面白い。登場人物の口調が時々定まらなくなるのも、この頃の翻訳っぽいなと思った。
とは言え「すごく古臭い」と感じるようなことは無く、読んでいるうちにこれが1927年に訳されたものだとは忘れてしまうような感覚があった。澤西さんの訳補も、芥川・菊池訳の部分と上手く溶け合っていて、時代を超えた3者(あるいは解説にあるように、1927年出版当時に下訳を行ったと思われる人々も加えた複数人)の共同作業が生んだ一冊だなと感じる。
マーガレット・タラントの挿絵もフルカラーでたくさん収録されており、物語の内容と更に生き生きと目の前に示してくれる。表紙は画用紙のような手触り、扉は透ける素材の紙にイラストが印刷され、その紙の奥にタイトルが見える面白い仕様。注釈の部分は紙色が違ったり、帯も透ける紙+エンボス加工のもの。著作権の関係があるにしても、これが2000円切ってるのは結構安いなと感じる。子供達だけでなく、手に取る全ての人が楽しめるようにと言うこだわりを感じる一冊だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年5月27日
- 読了日 : 2023年5月27日
- 本棚登録日 : 2023年5月27日
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