金魚撩乱

著者 :
  • 2012年9月27日発売
4.20
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本棚登録 : 96
感想 : 14

表題『金魚撩乱』から引っ掛かる。
金魚が撩乱?

撩乱:りょうらん 入り乱れること。花の咲き乱れる様。
繚乱とも表記。

大正・昭和初期の歌人・小説家 岡本かの子さんの作品。
岡本太郎さんの実母でもある。
瀬戸内寂聴(晴美)さんの『かの子撩乱』が彼女の代表作とされ、岡本かの子さんの道徳や常識を越え意のままに複数の男性との生活を営む姿を描かれている。こちらも是非読みたいところ。

本作はありがたいことにkindleで青空文庫として無料でダウンロード可。

日本語の極め細やかさに触れる一冊。
表題の「撩乱」もしかり、辞書を駆使しながら、漢字表記により意味を想像しながらも読み進められる。面白いところ。

金魚の新種開発に魅了されていく一人の男性が主人公。
事業を成功させるため、資金提供を名乗り出た近所の富豪の娘が本作のカギとなる。

幼少期から気になる存在だった少女への気持ちの微細な変容が見事な日本語によって浮きだってくる。
好きか、嫌いか、好意なのか、恋愛なのか。自らの想いを図る様な行動とのアンバランスな心の動き。絶妙かつ奇妙。

女性への想いがいつしか金魚の新種開発への耽溺や執着に重なる。
周囲の人間関係を投げ捨てて金魚に溺惑し、生きることに憂う日常の狂気。
「普通」と一線を画す様にあっけにとられながら、終盤の意表を突く一文が現実に引き戻してくれる。
本文より:
「意識して求める方向に求めるものを得ず、思い捨てて放擲した過去や思わぬ岐路から、突兀(とっこつ:高く突き出ている様。高くそびえる様)として与えられる人生の不思議さ」

正気と狂気の狭間すれすれのところを巧みな筆で表する1冊。
尾鰭を優雅に水面に閃かせる金魚が入り乱れる様が最後に映像で浮き上がる。お見事!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月22日
読了日 : 2022年3月18日
本棚登録日 : 2022年3月16日

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