スロウハイツの世界の余韻に浸っている間にどうしても読みたかった作品でした。「V.T.R.」、『神様』のデビュー作とされる作品。小説の中の小説が現実世界に飛び出してきた作品。
なんだかハードボイルドな出だしに、『神様』ってこんな作風なんだ、これが高校生が書いた作品なんだ、とちょっと興奮気味な読み始め。確かにいつもの辻村さんとは違う...ような。でも、そんな中にもやっぱり辻村さんを発見。『孤児院のイジメとかも、そりゃすごかったらしい。洗濯機に突っ込まれたり、乾燥機で回されたり、』、『乾燥機』...「子どもたちは夜と遊ぶ」の世界感が蘇ってきました。
小説の中に小説を描く、そんな作品の生みの親である辻村さんが思い描く『神様』像。辻村さんがこうだとおっしゃる限りそうなんだと思いますが、どことなく、今一つ思っていた感じと違うような感想も持ちました。青春のある一部分にだけ響く、『いつか抜ける』という彼の作品群。でもチヨダブランドを築きあげた圧倒的な説得力で『中高生からの絶大な人気を誇る小説家』の作品、これに若き日の赤羽環も心惹かれた作品、と言われると今一つピンと来ないような、そんな読後感でした。ただ、本編に続く解説にある『十代の頃の神様が理解できなくなったというのなら、それは、まごうことなき老化だ。』という一文が胸を突きます。この作品にピンと来なくなった自分、それは老化なのかもしれません。ショックな解説です。でも、これを書いたのは赤羽環さんだという、辻村さんから読者への贈り物。こんな方に言われるなら仕方ないかなぁと。
いずれにしても本編には今一つ乗り切れなかった思いがありますが、何を置いても、赤羽環さんによる解説が絶品でした。短い時間でしたが、スロウハイツの世界に引き戻された思いがします。やっぱり、スロウハイツの世界感はいいなぁと。
チヨダ・コーキの作品としての装丁含めた細かい作り含めて楽しませていただきました。
- 感想投稿日 : 2020年2月11日
- 読了日 : 2020年2月10日
- 本棚登録日 : 2020年2月11日
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