人生のどの場面でも主役ばかりという人はいません。長い人生、ならせばなだらかな大地のようなものだとも思います。ある場面で主役を務めれば、違う場面では主役をサポートする側に回る。自分のことは見えなくても人のことは他人だからこそよく見える。自分が経験してきた失敗、過ち、そこからくる悲しみを知っているからこそ、他人には自分と同じ過ちを繰り返させぬよう励まし、応援したくなる気持ちも湧き上がる。その一方で『自分の翅で飛び立った空から見下ろす景色はきっと美しい』そう、その景色を見たいという気持ちもよくわかる。
黄昏色の感じられる街で長年親しまれてきた『あかつきマーケット』、閉店を前にマスコット・あかつきんが失踪し、街の人々の生活のあの場面、この場面に出没するという設定。この作品では、まさしくそんな街に暮らす色んな人々の人生が思いがけないことで交錯し伏線のように繋がって行く様が丁寧に描かれていきます。やや薄暗い色調で描かれる人々、街並み。老若男女、色んな価値観、幅広い考え方の人々が登場する分、この人の気持ちわかる、この人誰かに似てる、こういうことってあるよねと自らの人生に重ね合わせてしまいます。
『たくさんの人がここで生きているんだと知った。多くの人が見えない着ぐるみを着て生きているのかもしれない。弱さやあさましい気持ちや泣きごとや嫉妬を内側に隠して、他人には笑顔を見せている。』そう、数多くの登場人物が、角度を変えながら色んな形で登場、再登場する度にぼんやりしていた世界がどんどん色濃くなってはっきりと見えていきます。どこにでもあるような街の光景が輝いて見えていきます。だからこそ最終章で描かれる登場人物大団円の瞬間がたまらなく愛おしく感じられました。
全編に渡って散りばめられた寺地さんのハッとするような言葉の数々がメモし切れないほどに次から次へと登場するなんとも贅沢な時間を過ごさせていただいたこの作品。駆け足で駆け抜けるのばもったいない、登場する人物一人ひとりの生き様、もがきながらも前を向くそんな人たちの声に耳を傾けながら一緒に歩きたい。「大人は泣かないと思っていた」と双璧に感じた寺地さんの絶品でした。
読書中、そして読後のじわっとわきあがってくる幸せ、とても素晴らしい作品でした。
- 感想投稿日 : 2020年2月22日
- 読了日 : 2020年2月21日
- 本棚登録日 : 2020年2月22日
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