虚心

著者 :
  • 幻冬舎 (2023年3月29日発売)
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本棚登録 : 295
感想 : 36
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吉川英梨さん著、「虚心」
「雨に消えた向日葵」の主人公、埼玉県警の奈良刑事の2作目の作品。

作風としては前作と同様、奈良の執念の捜査が物語の主軸。
タイトルの「虚心」の通り反対運動、デモ、闘争、そして捏造へと渦巻いていく中で、状況や環境や背景や対人関係からの先入観で真実や真相が偏向してしまうというストーリー。その傾向は物事を捉えれば捉える程加速していくように一方的に傾いていく。
やはり前作同様、色んな角度からの不穏さが加わり、現在と過去が平行しつつ物語は進んでいく。
非常に引き込まれる作品だった。

作中にあった言葉だが「正義の暴走」という言葉が正に「虚心」であると感じた。
世の中にある「危険な思想」や「ハラスメント」「教育問題」「戦争」やあらゆる争い事のだいたいはこの「正義の暴走」なのではないか?と感じさせられる。
正しいか否かは別として、己の正義をかざせば賛同しえる人々は関心を寄せ沸き立つ様に増えていき一つの方向に力を蓄えて傾向する。そして枠を越えた暴走も生まれる、ムーブメントとしてその中にはある一定の強い正義があるこそ。
それをこの「虚心」という言葉の中に描ききっている作者、凄い方だと感じた。

とても興味深いトピックだった。
次の奈良シリーズも執筆されることを心より期待している。



読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月18日
読了日 : 2023年12月18日
本棚登録日 : 2023年12月3日

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