「あの日の午後、太陽は気を失ったような気がする。そうでなかったら‥‥」。
絶え間ない余震に継ぐ余震、空腹と不安と絶望感に呆然とする主人公に、放射線の恐怖が追い討ちをかける。「生まれた家をなくし、帰る家をなくし、頼る家をなくした」女性の話は、実際に著者の知人の経験談を元にして書かれている。
東日本大震災を正面から扱った彼の作品をはじめて読む気がするが、"太陽が気を失っていたに違いない"という述懐は、経験者だからこそ感じられる思いなのだろうと感慨深く、生々しくもあった。
表題作を含め、初出は『オール讀物』連載の14篇。
よくもここまで書き分けたなと感心するくらい、木釘師やヘラ浮子師、舞台女優、ジャズシンガー、元運輸官僚と、登場する人々の肩書きは幅広い。
最後の国家官僚をリタイアし、天下り先も渡り歩いた悠々自適の男だけが異色で感情移入の難しい主人公だが、こういう人物も加えないと、短編集としては味わいが似てしまって駄目なのだろう。
死が間近に迫った、ある種の諦観や侘しさばかりではなく、老いてなお一花を咲かすべく新たな挑戦に向かう男女の姿も描かれ、時代小説から現代小説と60歳を目処にレールを乗り換えた著者の生き様とも重なってくる。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年12月1日
- 読了日 : 2023年12月1日
- 本棚登録日 : 2023年12月1日
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