ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論

  • 岩波書店 (2020年7月30日発売)
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<ブルシット・ジョブ>とは
⇒「被雇用者本人さえ、その存在を正当化しがたい、無意味で、不必要で、有害でもある雇用の形態」

「社会的貢献度の高い労働が搾取され、ブルシット・ジョブが高い報酬を得るのはなぜか?」
「自動化が進んでも、ケインズが予測した週十五時間労働はなぜ達成されないのはなぜか?」
「仕事のブルシット部門がより膨張し、実質ある仕事のブルシット化も進むのはなぜか?」

資本主義の原理によって効率化されるはずの民間企業でもダミーのホワイトカラーの仕事が無数につくりだされるおびただしい事例や、アンケートや聞き取りをもとに、ブルシット・ジョブに就く多くの被雇用者自身が社会に貢献していないと感じている現状を提示し、現代社会に上記のような問題が存在することを示したうえで、その原因を探る試みです。

著者はその理由としていくつかのポイントを挙げます。
・経済ではなく政治によって分配がなされる、認識自体が難しい経営封建制の成立
・「仕事は罰であり、仕事をしないことは悪」とする、宗教由来の潜在的な価値観
・「ケアリング労働」のような数量化しえないものを、数量化しようとする欲望の帰結

2011年のウォール街占拠運動にも携わったことでも知られる著者は、具体的な業界としては金融業(次に情報産業など)を最も多く俎上にあげており、経済の金融化がブルシット・ジョブの増大に大きく関与しているとしています。ホワイトカラーの増大が効率性とはなんの関係もない例としては、ユニリーバに買い上げられた工場に関する実例(P235)が象徴的な事例となっています。また、「ケアリング労働」に関する言及も多く、仕事の本質は搾取の対象となりやすい「ケアリング労働」にあり、今後は自動化が進むことによって益々その割合が増大するという指摘も重点です。

終章では、「本書は、特定の解決策を提示するものではなく、ほとんどの人々がその存在に気付きさえしなかった本」だとしながらも、具体的な対策について述べています。読み終えて、現在、自分自身が生きる社会そのものがフィクションのように感じられました。

以下は参考までに、各章ごとのメモの一部を残します。
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【序章 ブルシット・ジョブ現象について】
本書の原型となる2013年寄稿の試論とそれへの反響。
【1.ブルシット・ジョブとはなにか?】
「ブルシット・ジョブ」の定義。殺し屋や王などの特殊な例から境界を考察する。
資本主義下において社会主義体制にあったようなダミー仕事が増殖する現状。
【2.どんな種類のブルシット・ジョブがあるのか?】
ブルシット・ジョブの五分類
→取り巻き/脅し屋/尻ぬぐい/書類穴埋め人/タスクマスター(不要な上司/不要な仕事生成)
【3.なぜ、ブルシット・ジョブをしている人間は、きまって自分が不幸だと述べるのか?】
人間とは本質的に社会的な存在であることについて。
産業革命以降の「時は金なり」という新しい価値観。
【4.ブルシット・ジョブに就いているとはどのようなことか?】
人間の時間が他人の所有物になりうるという発想の社会的・知的起源。
ソーシャル・メディアの台頭の理由。
【5.なぜブルシット・ジョブが増殖しているのか?】
近年、急速に増加するブルシット・ジョブの仕事の割合。
ホワイトカラーの増大が効率性と関係がない例と、増殖する不要な管理者とその業務。
経済の金融化と情報産業の発展、そしてブルシット・ジョブの増殖のあいだにある、内在的な関係。
【6.なぜ、ひとつの社会としてのわたしたちは、無意味な雇用の増大に反対しないのか?】
政府や企業のトップが不在でも支障がなく、ごみ収集事業者がストを行っただけで街が居住不能になった例。
自己目的化した労働の道徳性。
仕事の定義と宗教的な価値観について。
経営封建制の特異な性質。
【7.ブルシット・ジョブの政治的影響とはどのようなものか、そしてこの状況に対してなにをなしうるのか?】ブルシット・ジョブの増殖を駆動している経済的諸力。
「価値」と「諸価値」について。現在進んでいるのは、諸価値を価値の論理に包摂せんとする企て。
ケアリング労働と数量化しえない仕事の重要性。
現状に対応するための政策について。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月15日
読了日 : 2020年11月15日
本棚登録日 : 2020年11月15日

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