13の短編と表題作。表題作のみ70ページ超だが、これも病院収容にまつわる連作八編で構成され、それぞれが独立したエピソードとして読めるため、実質は21の短編。ボリュームとしては一話平均で10ページを切る短さ。
全体に強い閉塞感と孤独を漂わせる夢のような物語が集められている。主人公の被害妄想じみた内面を描いた作品も少なくない。表題作に限らず、全編を通して「アサイラム・ピース」をテーマに創作したと言われても違和感はない。やや寓話的で不条理な作風からは、カフカの小説も連想させられる。それぞれが自立した作品として完成しているというより、アイデアにある程度肉付けをした、構想の過程のようにも受け取れる。
第一篇の短編「母斑(アザ)」は、岸本佐知子編訳のアンソロジー『居心地の悪い部屋』にも収められている。ここで本書訳である山田和子氏以外の訳者を持ち出すのも失礼かもしれないが、岸本氏の作品のチョイスがお好みの読者に合う可能性は高い。
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- 感想投稿日 : 2021年1月2日
- 読了日 : 2021年1月2日
- 本棚登録日 : 2021年1月2日
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