ワニの町へ来たスパイ 〈ワニの町へ来たスパイ〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2017年12月15日発売)
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"ワニの町"とはアリゲーターが出没するルイジアナ州の片田舎のこと。原題は"LOUISIANA LONGSHOT"。直訳すると「ルイジアナ大博打」だろうか。邦訳版タイトルは、日本人にはあまり馴染みのないルイジアナの特徴を"ワニの町"として端的に伝えるためのものだろう。そして当地を訪れる"スパイ"は、中東での任務において少女虐待の現場を目にして感情的に犯罪組織の男を殺害してしまった女性CIA職員である。

主人公レディングは復讐のために彼女をつけ狙う犯罪組織から身を隠す目的で、長官モローの指示で長官の姪としてルイジアナのある屋敷に向かう。その屋敷はレディングがなりかわるサンディ=スー・モローの故人である大叔母のものであり、亡くなった大叔母の遺産を処分するという名目でルイジアナの夏を過ごすことになる。

現役バリバリのCIA職員として世界を股にかけていたレディングは気位も高く、住民が250人程度しかおらず高齢者ばかりのルイジアナの片田舎にカルチャーショックを受ける。身分を偽りながらも無難に田舎での日々を過ごそうとするレディングだったが、訪問早々に裏庭を流れるバイユーの付近で人骨を発見してしまう。大叔母にあたるマージと親しかった、当地を取り仕切る老女たちと親しくなったレディングは、発見された人骨が五年前に行方不明になったハーヴィのものではないかと聞かされる。ハーヴィは親の遺産を受け継いだ富豪であると同時に誰からも嫌われた鼻つまみ者で、妻のマリーを虐待していたという。身を隠す目的で訪れたはずの田舎町で、奇しくもレディングは不可解な事件に巻き込まれてしまうのだった。

都会派のタフなスパイであるレディングがひょんなことから片田舎に滞在することになり、さらに当地に似つかわしくない事件に遭遇するというミスマッチな取り合わせを特徴としたサスペンスである。当初は田舎の人びとをやや高慢に見下すレディングによって、そのミスマッチさが強調され、作品のコミカルな要素にもなっている。

事件の謎を巡る展開としては、実は主人公やその周囲の登場人物の行動に空回りが多い。解決も一部を除けば主要人物たちの努力によってというより、どちらかといえば自然に訪れる。レディング本人も身体的な能力を除けばそこまで優秀というわけではなく、高飛車な態度が浮いて見えなくもない。

基本的にシリアスな作品ではなく、のどかさ、場合によってはマヌケさも漂う作品だった。ちょっとした感動もある気楽なエンタメ作品として映画化されれば、それなりの人気を博しそう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年11月20日
読了日 : 2021年11月20日
本棚登録日 : 2021年11月20日

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