伊予小松藩会所日記 (集英社新書)

  • 集英社 (2001年7月17日発売)
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伊予小松藩一万石という最小単位の大名家に残されていた長年の記録。小松藩は1636年から明治まで200年以上、同じ藩主の下で国替えもなく続くという稀有な例であるが、会所日記は享保元年1716年から慶應2年1866年までの150年間の記録。関連資料の越後従軍略記と併せれば戊辰戦争(北越戦争)までカバーしている。

本書は、会所日記等から読書が関心を持ちそうな部分を選んで、武士の暮らしと領民の暮らしの2部構成で小松藩の様子をトピカルにピックアップしていて、面白いネタが続いて読みやすい。

まず、一万石の規模感であるが、領民は合計一万人、下級武士まで入れて武家が200人程度。加賀藩・伊達藩の参勤交代の大名行列が3500-4000名なのに対して、小松藩は100名程度(それでも石高比的には頑張っている)。戊辰戦争の従軍も50名程度。江戸後期に藩が公的に有した馬がたったの一頭。規模柄、城も無く、藩主は小松陣屋という邸宅に住む。周辺は親藩・譜代の松山藩・西条藩・今治藩や天領に囲まれたシビアな周辺環境の外様大名家。

まず、目を引かれるのは、藩の財政だろう。1851年の会計帳簿を紹介しており、借入金やその返済も含めて一見均衡財政のようだが、18世紀末の寛政年間には、幕府から禁じられていた藩札(現代の赤字国債)を庄屋が出した形にして発行している。藩札の引き受けは班内の豪商・豪農に行ってもらったが、経済規模が限られるため、藩札価値が銀との関係でどんどん下がっていき、負のスパイラルに陥っている。当の執行部は極めて真面目に財政を切り盛りし、新田開発や塩田・鉱山経営などにも取り組むが、なんせ参勤交代と江戸屋敷の維持という物入りの制度(かつ徳川家への忠誠の表明以外の何ものも生み出さない)に縛られているため限界があった。財政再建を目指しつつ、歴代発行してきた赤字国債に雁字搦めとなり、将来へのツケ送りとしか思えない社会保障の負担に喘いでいる現在の財務省を髣髴とさせる。

また、周辺の藩との関係も面白い。犯罪捜査で仁義を切ったりこっそりとやったり、折に触れて連絡を密にしたりと。県を超えると連携が面倒になる都道府県警察システムとも似ているし、弱小国が外交に生き残りをかけるところにも似ている。

また、ミクロで領民の生活見ていくと、無理心中、酔っ払っての喧嘩・刃傷、借金の取り立ての藩庁への依頼と藩庁側の面倒の先送り対応など人間らしさを思わせる事件も数多く紹介されている。また、切り捨て御免、のような武士優越の世界では無く、小藩だからかもしれないが、意外と下級武士と農民の関係がフラットに見える。

他方で、実務は家老以下に任せ、参勤交代以外は仕事が無いように見える殿様の立場は、君臨すれども統治せずのようにも、現代のお飾りトップのようにも見える。その藩主が帰郷した折は、趣味の狩が催され、領民が勢子として嫌々付き合わされている。上司のゴルフに付き合わされているようなものか。

記録は実務的なものだが、そこから垣間見える当時の生活や現代との相違点や共通点、そして何よりも濃厚に感じられる江戸人の息遣い。

200頁にも満たない新書で読み易く、とても面白かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年2月13日
読了日 : 2023年2月13日
本棚登録日 : 2023年2月13日

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