全一冊 小説 上杉鷹山 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1996年12月13日発売)
4.28
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本棚登録 : 1193
感想 : 138
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童門冬二さんの本。
さっき、レビューを書いて登録されたのを確認したのに、なぜかレビューが消失している(TT)。もはや先ほどのような新鮮な気持ちではもうレビューを書くことはできないので、さっきの記憶の残骸をたどって、できるだけ復元に努めたい。自身の読書記録として。

童門冬二さんの小説は、歴史上の人物を扱ったものが多く、その人物から学ぼうというスタンスの作品が多いと思う。よくビジネス教材としても使われるようである。

だが純粋に歴史小説を小説として楽しみたい私としては、あまり童門冬二さんの小説には手を出していない。その理由は、著者の執筆スタイルにあると思う。

重要なポイントが箇条書きで整理されていたり、現代に当てはめて考えてみると・・・とか、企業経営に置き換えてみると・・・とかの記述が時おり、小説の流れの中に出てきて、それにどうも興ざめしてしまうんです。

自分なりに考えを巡らせながら読み進めていくところに読書の醍醐味があるし、人物を観るにも他人の視点ではなく、自分の目で見てみたいという気持ちがある。それに、その時代から急に現代にもどされたり、小説の世界が流れているところに、急に現実の世界に戻されるのはあまり気持ちはよくない。

まぁ、そういう点を抜きにして見れば、第9代米沢藩主・上杉鷹山の改革はとても面白かったし、多くのことを学ぶことができたと思う。

藩政改革の話だったので、ついつい中学生のころに社会の時間に習った江戸三大改革のことを思い出した。徳川吉宗の享保の改革、松平定信の寛政の改革、水野忠邦の天保の改革。享保と寛政の間くらいに田沼意次の改革というのもあった。だけど、上杉鷹山の改革を社会の時間に習った記憶はなぜかないんだな(寝ていたか?)。

本書の中でも、ちょうど同時期ということもあって、田沼意次の改革と鷹山の改革が比較されるような形で登場する。田沼の改革が金権政治によるもの、鷹山の改革は人心をつかんだ改革として書かれ、著者としても人心をつかんだ改革であったからこそ鷹山の改革は成功したのだと訴えたかったのだと思う。

しかし思うに、客観的に考えれば、鷹山は当時たかだか17歳で他地(九州)から養子として迎え入れられた若造藩主である。

それに比べて、田沼は老中、しかも当時の幕府財政の再建で一定の成果を上げていたのだからむしろ田沼の金権政治のほうが当時の常識だったはず。その常識に、まったく違った(むしろ正反対の)政策方針で、藩政を貫き、結果を出したのだから、鷹山という人はやはり並の人ではなかったのだろうなという強い印象を持ちました。

そのほか、知的に障害のある妻を、生涯大切にしたエピソードが紹介されていたり、そもそもこの藩政改革が、貧しい藩民の生活改善を目的になされたということからしても、人格的にも素晴らしい人物だったということが想像できました。

読後に、ネットでどんな顔しているのか調べたくなり、上杉鷹山と田沼意次の画像を見比べてみました。瓦絵のような二人の画像が出てきましたが、鷹山にはなんとなく品格が感じられたの対し、田沼のおやじのほうは、どうも銭に敏い面に見えたのは、先入観によるものでしょうか?(笑)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 童門冬二
感想投稿日 : 2014年10月25日
読了日 : 2014年10月25日
本棚登録日 : 2014年10月18日

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