三屋清左衛門残日録 (文春文庫 ふ 1-27)

著者 :
  • 文藝春秋 (1992年9月10日発売)
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感想 : 103
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藤沢周平さんの初読み。周囲にもファンが多く、いつか読もうと思っていてなかなか手に取れなかった。

以前、宮城谷昌光さんの対談か随筆の中で、藤沢周平さんの本書と「蝉しぐれ」を絶賛されていたので、「読みたいリスト」には登録しておいたが、やっと本書を読むことができた。

江戸時代を舞台とした「時代小説」、つまり史実に基づく小説ではなく、その時代要素を取り入れたフィクションだ。史実というシナリオがもともとあるのではなく、著者はイチからストーリーを構築しないといけないということだ。

そういう意味ではとてもよくできた小説だなと思った。同氏の小説では架空の「海坂藩」が舞台となるそうだが、本書の舞台がそうであるかどうかはわからない。
ともかく読み始めたら即江戸の町に放り込まれる。

主人公三屋清左衛門は、藩主に仕える用人であったが、藩主の死去を期に、隠居したいと新藩主に申し入れ、それが認められた直後の隠居生活での出来事を描いた小説である。

隠居、悠々自適、そういう言葉が出てくる。現代で言えば勤め人が一仕事終えて、「さぁて、やっと仕事も勤め上げて、これからは自分の好きなことをやって余生を楽しむぞ~」みたいなシチュエーションである。

清左衛門も、城下町を好きな時間にぶらぶらしながら、時には鳥を刺し、魚を釣りと、そして時々美味いものを食ってと、そんな生活を望んでいたようだ。

ところがそういう予想に反し、藩内の様々な事件に巻き込まれていく。もともと用人という職は、人望熱く、主君の仕事を卒なくこなせる人物が適役のポジションだ。そのポジションについておれば、自然に中央には精通してくるし、人脈も広くなる。

そんな人物は、隠居しても、逆にフリーの立場と言う中立性からいろいろと相談ごとを持ちかけられる羽目になるようである。

大きなところでは藩内の派閥抗争にからむ事件の調査から、庶民が巻き込まれた問題の解決まで、次々と清左衛門のところに課題が持ち掛けられるのである。誠実な清左衛門は、その解決に奔走するのである。

事件性のあるストーリーは読者を飽きさせない。短編連作の形式で展開されるので、一話一話を楽しみつつも、全体でまた楽しめる展開となっている。

それにしても、どちらの派閥につくかで将来が左右されることを悩んだり、派閥抗争の裏側でドス黒い謀略が渦巻いているなど、江戸時代も今も全く変わらないと思わせるようなストーリー展開に、時おり現実と対比しながら読んでいる自分がいたものである(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 藤沢周平
感想投稿日 : 2019年8月28日
読了日 : 2019年8月25日
本棚登録日 : 2019年1月10日

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