書店で平積みにされていたのと、タイトルになんとなく興味をそそられ購入した。興味はそそられたものの、このタイトルにはいくつかのクエスチョンがあった。そもそも「第三のチンパンジー」とはなんぞや?とか、どうして「若い読者のための」と前置きがあるのか?とか。とても好奇心がそそられるタイトルだ。
そして、その読者の好奇心に膨大な研究の裏付けをもって答えてくれるだけでなく、読者に啓発すら与えてくれる良書であったと思う。
そもそも、著者はこの研究に何十年もの歳月を費やし、ほぼ生涯をかけて本書を著しているようにも思える。そのような労苦の結晶を、数百円のお小遣いと数日間の読書で学ぶことができるなんて、読者というのは本当にありがたいと思う。
著者の肩書には、カリフォルニア大ロス校教授のほかに、進化生物学者、生理学者、生物地理学者とある。「人間という動物の進化と未来」という副題があるとおり、本書は進化生物学を基軸として著されたものと思うが、巻末で翻訳者(秋元勝氏)が語っているように、鳥類学や人類生態学、古環境学、古病理学、言語学などの関係から有機的に分析がされていて、しかも素人にも分かりやすく説明してくれているように思う。
本書は、著者の「人間はどこまでチンパンジーか?人類進化の栄光と翳り」の出版(1993年)以降の研究成果がアップデートされたものであり、しかも写真などを大幅に増やし、最新の研究成果に基づいて、より読者の理解を促進しようとした工夫がされているように思う。
その読者の理解の促進という意図が、この「若い読者のための」という言葉に表れていると思う。
哺乳類の中に、霊長類という分類があり、霊長類の分類の中には、サル、類人猿、ヒトという分類がある、、、ということすら正確に意識したことがなかった。
ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザルが、「サル」とは異なる「類人猿」という分類となるという、おそらく進化生物学の中では基本中の基本すらはっきりと知らなかった。そもそも霊長類の中では、ヒトとそれ以外という理解でいたというのが正直のところだ。
しかし、チンパンジー(コモンチンパンジー、ボノボチンパンジー)とヒトの遺伝子を比較してみると98.4%が同じで、違いはたったの1.6%であり、分類的にはむしろヒトとチンパンジーを別の分類とするには違和感があるという問題提起からスタートする。つまりは、ヒトは第三のチンパンジーだということだ。
では、たった1.6%の差異がどうして、どうしてこのような大きな違いを生み出したのか?そのことを順をおってジャレド・ダイヤモンド教授が語ってくれるのだ。
昔、世界史の教科書の冒頭のほうで学んだ、「言葉を使う」「直立歩行」「道具を使う」「火を使う」、そのようなことを単発で説明しているのではない。むしろ、こういう低レベルの教育しか行われていなかったことを嘆く声すらある。
地質などを調べていつの時代にどのようなことが起こったのかを分析していく過程、環境から生物が進化していく様子、生物が絶滅する理由、などなど教授の話すどの切り口もどの分析過程もとても興味深く読める。
例えば人類が「農業」というものを見つけたことは、人類の光であるとしか思っていなかった。本書では、光の部分と陰の部分について語られている。
ヒトを生物の一つとして客観的に見たとき、そして大きなスケールで生物の進化や人類が行ってきたことを振り返ってみ見たとき、現在の人類の存在が、絶滅と背中合わせであることに気付かされる。
ヒトが道具を使えるようになったということにも光と影がある。その影が膨張しつつあり一触触発の状況下にあることが、大きなスケールで過去の歴史を振り返った時、客観的に理解できる。
ヒトの最も特徴的な差異であるジェノサイドを引き起こす特性について詳しく述べられている。このことも、大きなスケールで、過去に繰り返された数々のジェノサイドを知ることにより、現在の我々もそのスケールの中に存在するのだという危機意識みたいなものを感じざるを得ない。
本書が「若い読者のための」とタイトルされている重要な理由が書かれていると思う。その理解によって、人類は背中合わせの危機から脱出する力ももっているという啓発が込められている。
- 感想投稿日 : 2018年5月5日
- 読了日 : 2018年5月4日
- 本棚登録日 : 2018年2月27日
みんなの感想をみる