業物語 (講談社BOX)

著者 :
  • 講談社 (2016年1月14日発売)
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本棚登録 : 1188
感想 : 83
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 物語シリーズオフシーズン第二弾『業物語』。

 傷物語の映画化に触発されて書かれたという話をよく耳にしていたが、むしろ映画の来客数が落ち込む2週目にあえて傷物語に深く関係する業物語を発売し、一度映画を見たという人も、業物語を読んで2週目3週目にもう一度見に行きたいと思わせる、混物語と同じく集客効果を狙った西尾維新先生の策略なのではと感じた。

 そんな『業物語』には『うつくし姫』『アセロラボナペティ』『かれんオウガ』『つばさスリーピング』の計4編が収録されていた。

『うつくし姫』は忍が吸血鬼ではなく人間だった頃の話で、うつくし姫と呼ばれたローラ姫の頃のお話。救いのない残酷でツラいお話で、見た目が綺麗なのか心が綺麗なのかということと、欲深い人間の中で心が綺麗ということの罪深さが問われた話なのではないかと感じた。
 忍が撫子のことを嫌っていたのは、このような美しいと周囲から言われ続けていた過去を持っていたからなのかもしれない。

『アセロラボナペティ』は忍が吸血鬼ではなく人間だった頃の話で、アセロラ姫から吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードとなったお話。ボナペティとはめしあがれ、どうぞお食べなさい、という意味。
 この話は叙述トリックのオンパレードで、一切疑いもせず読んでたので何度も驚かされた。最初のスーサイドマスターが女性だったという叙述トリックは、トロピカレスクが見た目がいいから眷属にしたということ以外に、アセロラ姫の美貌に自我を忘れ会話が困難になるほどほど酔いしれなかった理由なのかもしれない。また、うつくし姫に対して王子様が現れると思わせておいての、相手が女性というミスディレクションの意味はもちろんあるだろう。
 また最後のあとがきで語られた死ぬたび若返るという裏設定は、傷物語でキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが阿良々木暦の血を吸って救われたときに幼児退行していたことに繋がるのかもしれない。スーサイドマスターの眷属なので能力を微小ながら受け継いでおり、一度死の淵から立ち直ったので、体だけ幼い体になってしまったのではないだろうか。
 ともあれ、これまでの忍の生き方、あの時代劇のような芝居がかった話し方の起源を知ることができて大満足だった。

『かれんオウガ』は阿良々木火憐が自分探しのため山に籠る話。人は一人では生きてはいけないということを、人間離れした体力とガッツの持つ一人でも全然生きていけそうな火憐ちゃんを通じて訴えているかのようなお話。忍の時代がかった口調の意味を前の話で明かしたあと、この話で支え役として出演させて、多くの台詞を用意した西尾維新先生のにくい演出が光っていた。
 この物語の最後には、やはり忍がこっそり助けていたのか、それとも火憐の成長のための自問自答のようなものだったのか、もしや怪異のせいなのなのか。読者に答えを任せるようなオチが待っている。けれども『花物語』が『青春』についての話だったのと同じようにこの話自体が『成長』についての話なのだと考えれば、このようなオチもありなのかもしれない。

『つばさスリーピング』は羽川翼が忍野メメを探しに行く際におきたトラブルの話で、羽川さんがまさかの一部とはいえ吸血鬼化する物語だ。この話のミソは、日頃休みの日でも勉強したりと遊びの概念がないのかと思うぐらい、超がつくほど真面目に生きていた羽川が、遊べなくなって自殺する双子の吸血鬼の様子を目の当たりにしたことだろう。脇道に逸れることを嫌っていた羽川にとって、遊べなくなっただけで死んでいく双子の吸血鬼は皮肉でしかない。それを遊ぶことも生きるうち、遊ばないと生きていけないのだと学ぶことのできた羽川は、やはり成長できたのだと言える。
 それにしてもずいぶん久しぶりの忍野メメの登場。痺れました。話し方からしてカッコいいですね。羽川の阿良々木暦愛も凄くて、2人のやり取りが心地よくて楽しかった。

 この『業物語』を読み終えて、全体の印象としては物語シリーズの話の中ではあまりインパクトの強いお話ではなかった。
 暦物語や憑物語、終物語上巻のように訴える物語が多かったのかなという印象だった。
 ただ、今回の『業物語』のテーマは『生と成長』だったのではないかと考えた。
 生きることと死ぬことを通して見ると、『うつくし姫』『アセロラボナペティ』では生きることとは食べること、相手に合わせて共存することであり、『かれんオウガ』では生きることとは誰かの助けを借りること、『つばさスリーピング』では生きることとは暇を潰すこと、遊ぶことがその答えだった。
 成長を通して見ると、『うつくし姫』『アセロラボナペティ』では心が美しいだけでは生きられないということを学んだアセロラ姫の成長が、『かれんオウガ』では一人では前に進めないということを学んだ火憐の成長が、『つばさスリーピング』では人は遊ばないと生きていけないということを学んだ羽川の成長が見えた。
『業』には『 苦労してなしとげる事柄』と『報いを招く前世の行い』という意味がある。そう考えるとこの収録された4編は間違いなく『業』の物語だったと言えるだろう。

 あと2冊出るというオフシーズンも楽しみだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ライトノベル
感想投稿日 : 2016年2月4日
読了日 : 2016年2月3日
本棚登録日 : 2016年2月3日

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