教育は遺伝に勝てるか? (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2023年7月13日発売)
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一卵性双生児の研究を中心に、人間の遺伝の仕組みやを解説してくれる行動遺伝学の入門書。遺伝について、なんとなく親に子が似ることでしょ、くらいの認識でいた人間としては、目からうろこの知識が多く、すごくためになった。

異なる人生を歩みながらも、どこか似た経験をする双子のライフストーリーも面白かった。が、個人的に、印象に残ったのは、一番最初に説明される「遺伝は遺伝せず」の話だった。
中学だったか、高校だったかで学んだ記憶のある「メンデルの法則」について説明している部分である。遺伝子には、優生のものと、劣性のものがあり、純血の緑色と黄色のエンドウマメを掛け合わせても、黄色のものしか生まれない。改めて緑色のマメが生まれるのは、さらにその次の世代で、そもそも、遺伝というのは、親に似るわけではないということになる。
人間の場合、見た目や能力などの遺伝に関わる遺伝子は、数億個もある。その組み合わせは、エンドウマメの色なんかよりもはるかに複雑で、どんな親であっても、どんな子どもが生まれるかは、ほぼランダムだという。

生まれてきた子どもは、成長するに従って、進路や就職など、自分自身で決められることが増えていく。そして、そうした選択には、遺伝的な影響がある。面白いのは、大人になるにつれて、人生の選択や能力に、元々本人が持っていた遺伝的な影響や、偶然の環境の影響の方が、家庭環境よりも大きくなっていくことだ。
つまり、どのように育てても、子どもは育つようにしか育たないのだという。

では、周りの大人の働きかけは、無意味なのだろうか。著者が出す例が分かりやすい。
たとえ、数学の才能があったとしても、その子に誰かが数学の教科書を与えてあげなければ、その子が数学の才能を発揮することはない。
著者が、行動遺伝学から考える大人にできることは、子どもたちの人生にとっての一人の選択肢になることだという。遺伝を全てを決定するものではなく、大人の在り方にも「こうあるべきこと」はないのだということ。
大人もまた、自分らしくあることの意義を教えてくれる本だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年2月20日
読了日 : 2024年2月20日
本棚登録日 : 2024年2月7日

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