文章を分かりやすく書き換える、いわゆる推敲の指南書。エッセイや小説といった文学的な文章ではなく、自分の見たこと考えたことを、正確に、論理的に伝えるための文章を書けるようになるためのトレーニングの本である。
著者は、分かりやすい文章を書くための力を「語彙力」「表現力」「論理力」という三つに分けており、各章でそれぞれの力をつけるためのトレーニングが紹介される。個人的には、「描写力を付けようー視覚情報を文章に置き換える」と「客観的に書こうー感想を含まない文に書き換える」の二つのレッスンが特に参考になった。
「描写力を付けよう」では、地図を参考に道行きの風景を描写したり、薬研を例に、見たことがない人に向けて、特殊な形状をしたものを説明したりするトレーニングから始まる。面白かったのは、夏目漱石『門』の描写から登場人物宅の間取り図を書くのと、大岡昇平『俘虜記』に出てくる収容所を、イラストを参考に文章で描写するというもの。普段から小説を読むが、この手の建物の描写などは、何気なく読み飛ばしていて、書かれた内容からどのくらい元の映像を復元できるかは考えたことがなかった。復元作業を通して、文豪の描写の緻密さに驚いた。
「客観的に書こう」では、「〜と思う」や「かわいそう」などのように、主観的な感想を述べる表現を除いて、文章を客観的に書き直すトレーニングが紹介される。最初に行う作業として、文章の内容を変えずに、単純に「思う」で終わっている文を断定する形に直すことから始める。面白いのは、「思う」を外しただけで「言っている内容がおかしいのでは」と感じる文が出てくることだ。
筆者は、多くの「思う」が、事実として主張すると無理が出てくるところにつけて「これはあくまで私の感想です」とすることで逃げようとする「逃げの『思う』」だと言う。自分が文章を書いているときも、やりがちである。「思う」とか「思われる」とかいった表現を断定形にするだけでも、その主張は成り立つかを確かめるセルフチェックになる。
自分の文章、何となく分かりづらいと思う人はもちろん、そうでない人も、自分の文章が、本当に「伝わる文章」になっているかを反省するのに、よい本だった。
- 感想投稿日 : 2023年8月22日
- 読了日 : 2023年8月22日
- 本棚登録日 : 2023年6月4日
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