大きな鳥にさらわれないよう

著者 :
  • 講談社 (2016年4月22日発売)
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本棚登録 : 1023
感想 : 157
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又吉は、第2図書係補佐でコインロッカーベイビーズについて、このように評している。
「いつかはるか遠い未来の住人が、過去の世界も残滓として土の中から1冊の本を発見するならこの本がいいと思う。充分新世界の神話になり得るだろう。」
私は、この言葉は、むしろ川上弘美さんの『大きな鳥にさらわれないよう』のためにあるように思える。
超人的な視点で人類の営みを見つめる神としての母たちと、そして最後の人類である二人。母たちはAIゆえの合理性で人類全体の寿命を延ばすことに努めるが、人類の果てしない愚かさに抗うことはできなかった。最後まで人類を愛していたにも関わらず。予想に反して、本当の最後に文字通り新たな創造主が現れるのです。やはり人類の神たり得るのは、人間らしい人間のみなのかもしれません。我々の神がそうであるように。
私が特に心打たれたのは、見守りが新たな人類を発見し、否応無く溢れる嫌悪感に耐えられず毒殺してしまうところ。他のレビューにも書いたが、悪人ははなから悪人として存在し得ない。誰しもが皆、悪人たり得るのです。そしてそれは差別も然り。その自覚があるかないかの差なのではないでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年11月25日
読了日 : 2019年11月8日
本棚登録日 : 2019年8月21日

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