わたしのペンは鳥の翼

  • 小学館 (2022年10月26日発売)
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本棚登録 : 314
感想 : 21
5

アフガニスタン(以下、アフガン)の女性作家18名による23篇の作品が収められている。
紛争などによって疎外された現地の作家を発掘するプロジェクト〈アントールド〉により集められ、更に英語圏の読者に読んでもらうべく現地の翻訳者が英訳。アフガンの人々によって彼女達のペンは翼へと姿を変え、世界中に羽ばたいたのである。
装丁・タイトルに惹かれて手に取ったが、想像以上に意義のあるもので本を持つ手に力が入った。

「みなさんの心を引き裂くような文章も本書にはあります」
「思わず息を殺してしまうような文章も記されています」
こんな文言がまえがきにあったら、その先は覚悟を決めて読んでいくしかないだろう。(どうしても投げ出す気にはなれなかった)
予想を裏切らず、というか上回って、どのストーリーも重くのしかかってきた。1話終えるごとにページを閉じ、時間を置いてから再開する調子。彼の地ではどれも現実あるいは起こりうる話で、中には実際の事件を題材にしたのも含まれているから辛いのなんのって。

ストーリーのシチュエーションは様々だが、おおよそはテロや家庭内暴力、男尊女卑問題が背景に横たわっている。
「死は平等に訪れる」と言うけれど、いつどこでテロに巻き込まれるか予測できない日常でもそんなことが言えるのだろうか。秒/分/時間刻み、その場所にいるか・いないかで運命が決まってしまう。『エアコンをつけてください』のハミード校長みたいに妙な胸騒ぎがしたりと、生きた心地のしない日々を過ごさなければいけない中で。

「あの人たちが気にしてるのは、人からなんて言われるかということばかり。片方の耳を壁に、もう片方をドアにくっつけて暮らしてる」

身近に戦争がない時も、女性は家庭や社会において厳しい視線に晒されている。
親から充分な教育を拒まれ勝手に婚約者を決められる。男子の出産を強制される。かと思いきや、『虫』のゾフラーのように芸術家志望を否定される。(否定した校長曰く、「アフガンでは女性の指導者や技術者が必要とされている」んだとか…)
そのうえ本書の刊行はタリバンが政権に返り咲く直前であって、現在女性の立場はますます悪化の一途を辿っているという。

女性の生き方を決めつけている点は日本も変わらない。
しかし我々と違うのは、彼女ら18名の作家は各々の現実を一切オブラートに包んでいない。ペンの力を通して、男性社会(男性によって歪められた社会)に屈しない確固たる姿勢を示している。村を水没の危機から救った女性の物語『アジャ』では、正しいことを遂行する役割に男も女も関係ないという強いメッセージ性が発信されており、何より勇気づけられた。

これほど「ペンは剣よりも強し」を肌で感じるこってなかなか無い。各シーンの断片が、まだ記憶に刺さっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月28日
読了日 : 2023年1月28日
本棚登録日 : 2023年1月28日

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