ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社 (2019年7月12日発売)
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凄い、今自分が図書館で借りて手にしている分で33刷目らしい…。(初版は2019年7月刊・手元にある分は2021年5月刊) 随分話題になっていたけど、反響も凄かったんだな。
タイトルの「非行少年たち」とは具体的に、「医療少年院に入所している、知的障害をもち非行を行った少年たち」のことを指す。犯罪行為はともかく、性質の面では非常にデリケートな問題だというのは間違いない。

児童精神科医の著者は大阪の精神科病院・少年院を経て、現在三重県の医療少年院に勤務されている。医療少年院とはいわば少年院版特別支援学校で、「特に手がかかる」と言われている上記のような少年たちを収容する施設のことだ。
「ホールケーキを3等分に分けよ」という問題をはじめ、少年たちは簡単な計算や漢字問題が解けない。また無気力だったりすぐ暴力に訴えたりと、どうすれば良いのかこちらも頭を抱えてしまう。
本書ではカウンセリングや治療プログラムの模様から、知的障害をもつ少年たち(本書では女子も「少年」と呼んでいる)や彼らを軽視してきた学校や社会を詳細に分析していく。

「非行は突然降ってきません。生まれてから現在の非行まで、全て繋がっています。[中略]子どもが少年院に行くということはある意味、”教育の敗北”でもあるのです」

「教育の敗北」…。ズドンとくる言葉だ。
犯した事件の重大さを把握せず、反省の色も見せない。果ては殺人を犯しても「自分は優しい人間だ」と主張する。
様々な特徴がある中でも認知機能の弱さが際立っていたように思う。見たり聞いたり想像する力が最初から歪んでいると、考えや行動にズレが生じる。(ホールケーキの件もさることながら、複雑図形を模写する実験で全く違う図を書き残した例も大変ショックだった)
学校のカリキュラムはおろか、通常の更生プログラムまでもが通用しない。でも学校や社会では知的障害とは認識されず「ただのできない人」扱い。完全なる「教育の敗北」…

「子どもの心に扉があるとすれば、その取手は内側にしかついていない」

みんなができることができずに壮絶ないじめや虐待を受けた彼らは、明確なSOSを発信できずにいる。それでも彼らなりに「サイン」を出し続けるのだが、周囲は見過ごすばかり。通り一辺倒の対処では、たとえ出所してもまた塀の中に戻りかねない。
現状を踏まえた上で我々が最も注目すべきは、第7章「ではどうすれば?1日5分で日本を変える」である。「コグトレ(Cognitive Training、認知機能強化トレーニング)」など、彼らの苦手意識を改善していく方法が多数取り上げられており、それらは学校現場でも導入できるという。積極的に取り組む姿勢が見られたら、それはもう彼らが”扉”を開け始めている段階なのだ。

彼らの風貌は想像するしかないけど、克明な記述から表情は読み取れた。
カウンセリング時の無表情・すぐ喧嘩を吹っかける時の険しい顔・光が戻ったかのような笑顔。こうした想像でも彼らのことを知っていく糸口になれば…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年5月2日
読了日 : 2024年5月2日
本棚登録日 : 2024年5月2日

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